0002 カフェのキッチンから見えるもの(2015.04.11.

清澄白河でカフェを開業して早や2カ月が過ぎた。この間、既に何度も足を運んでくださっているご近所の皆さんには心から感謝している。ランチタイムはかなり混んでしまい、ご迷惑をおかけしたこともある。飲食未経験の慣れない人間が集まってやっているので仕方ないと言いたいところだが、始めてしまえばプロはプロ、お客様から愛される店にしていかなければ絶対に結果はついてこないだろう。経験がもの言う世界だとは思うが、頑張って経験を積み重ねていきたいと思う。

 

この2カ月の間に、カフェのキッチンから眺めてきた風景は、ある意味予想通りでもあり、意外な面もあることはあった。急速に変貌・発展する江東区のなかにあって、南部の豊洲や有明ほどではないにせよ、清澄白河界隈も再開発で大きく変わりつつある。全く新しい町をつくるような南部の開発とは違って、歴史的な遺産も多く残る深川地区の中で、この平野や三好といった住所のあたりは、まだ開発の手があまり入っていない部類だろうが、それでもいくつか新しいマンションが建ち、子育て世代の若い人たちが多く住んでいるようだ。半蔵門線や大江戸線を使って都心方面に短時間で出られる割には、不動産価格はまだリーズナブルなほうだろう。

 

我がトゥルノントゥ(現在はGINGER.TOKYO)の中心的なユーザー像は、アラサー=子育て世代の若夫婦と、アラ還=50代60代の音楽好きといったところだろうか。この点に関しては、計画段階から予想していたことである。意外だったのは、若い方でアナログ・レコードに興味を示される方が多いことである。昨今のアナログ・ブームは単に団塊の世代が定年を迎え、時間的・金銭的余裕が出て、昔好きだったオーディオの世界に舞い戻っているから、ということは日経新聞などで繰り返し報道されている。しかし、それに加えて、アナログに魅力を覚えている若い方が増えているということは間違いなさそうだ。お客様との会話から、実感として伝わってくるのである。

 

また、ウェブによって大きく社会構造自体が変わってしまったことは否めないが、それを上手く活用して楽しんでいるのも、やはり若い世代の人たちだろう。ネット・ネイティヴと言われる、物心ついたときからインターネットがあった世代が、もう社会人になろうとしているのだ。大学も大きな変革を迫られているというが、これからは社会全体がもっと大きな変革に飲み込まれていくのだろう。カフェで何か関係があるのかと問われれば、やはり大いに関係ありと答えざるを得ない。フェイスブックなどで自発的に宣伝をするのは当然、そこではお客様とダイレクトに繋がり、フィードバックもいただける有り難い時代だ。そして、多くのお客様がそれぞれに発信しているということが、有り難くもあり、怖くもあるのだ。

 

特に若い世代の方は、臆せずに「写真とってもいいですか?」と訊いてくるので、「もちろん、どうぞ」ということになる。面白いなと思う景色はどんどんスマホやデジカメで撮影し、ブログやSNSで発信してくれる。裏でどんなカネが動いているかわからないマスメディアの情報よりも、個性や好みがわかっているブロガーが発信している情報のほうが信憑性が高いともいえる時代なのだ。昨今のコーヒーブームに沸いている清澄白河界隈は、小さな放送局や出版社がいっぱいうろついているような状況とも言えるわけである。ある意味、恐ろしい時代でもある。

 

ミュージシャンの要請か、はたまたレコード会社の懐事情か、アナログ・リリースに熱心なアーティストとそうでないアーティストがいる。昔ながらのファンが多いザ・ビートルズは、さすがに熱心で、ステレオ盤やモノラル盤など、頻繁にリリースされている状況だが、それに比べると、ザ・ローリング・ストーンズは熱心とは言い難い。たまにボコッと大きなボックスセットがリリースされたりするが、明らかにカネに余裕のある昔のファン向け商品といった匂いがする代物だ。一方で未発表音源などは、多すぎて整理できないのか、一向にリリースが進まない…と思っていたら、最近ようやく映像音源のリリースが始まった。「From The Vault」というシリーズで、まず2タイトルがリリースされ、第3弾が告知されたばかりである。映像音源だけに、LP3枚組にDVDなどがついていたりする。いやDVDやブルーレイディスクにLPCDがついているのか?バリバリに元気だった時代の音源というだけでなく、50年以上にわたって現役の彼らは時代によってセットリストが異なるため、集める楽しみも大きいのである。

 

しかし意外なことに、国内盤はリリースされないということばかりでなく、これがなかなか入手困難なのである。しかも困ったことに、かなりお高いのである。これでは若い世代のアナログ好きには手が出ない。自分は半分仕事のような感覚で、新規リリースの告知を毎日チェックするので、お安いうちに予約注文をかけることができるが、誰でもできることではなかろう。もう少しミュージシャン側も、新規の顧客開拓といった感覚で、手を出しやすいアナログ盤をリリースしてもらえないだろうか。現状では、先細り必至の高齢者向けマーケットになっているように思えてならない。経済論を語るつもりもないが、カフェのキッチンからは、意外なものが見えるのである。

 


         
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