0007 デジタル録音って何?(2015.05.16.

1980年代、音楽メディアのパッケージはアナログ・レコードからCDに切り替わった。1982年に最初のCDが発売になり、主要メディアとして逆転するのが1986年、凄まじい普及のしかただった。何はともあれ、ポータビリティを謳った点が成功だったと思う。自分はさほどすぐに手を出したわけではなかったが、1986年ごろに、ボーズのポール・サウンド・システムというものを取り入れたのが最初だった。天井と床の間にわたすツッパリ棒的な構造のポールにボーズの小さなスピーカーとCDウォークマンを載せるトレーがついているもので、CDウォークマンさえ買ってくれば洒落たホームオーディオ・システムが完成するというものだった。見た目は確かによかったと思う。CDウォークマンも最初の頃は、大きなバッテリーをドッキングするので、とても軽いとは言い難い代物だったが、アナログ盤のターンテーブルなどと比べればやはり小さかった。何はともあれ、持ち歩けるのだから嬉しかった。

 

その一方で、録音現場でもデジタル化は進行していたようで、80年代中盤から後半にかけては、アナログ・レコードでも「デジタル録音」という謳い文句が帯に書かれていたりする。オリジナル・マスターがデジタルの場合、どれだけの情報量か知れたものではない。アナログ・マスターの方が情報量は多いことだけは確かだろう。ECMなどのように頗る音質に拘るレーベルの盤であれば、なおさらかもしれない。マーク・アイシャムとアート・ランディの「ウィー・ビギン」というECMのニュー・エイジ・ミュージック盤を聴きながら、細い帯に書かれた「デジタル録音」の文字を見て、懐かしいような恥ずかしいような、何とも不思議な感覚にとらわれてしまったのである。

 

その一方で、リー・リトナーの「ジェントル・ソウツ」などは、ダイレクト・ディスクという強引な録音を行っている。テクニックがある連中はこういう選択肢もあったのだろう。フュージョン系にダイレクト・ディスクが多いのは何とも頷けるものである。それでも昔のジャズなどは、テープが高価だったという事情からか、少々の音のヨレやミスはそのまま発売していることもあり、やっていたことは変わらないのかとも思う。いつ頃からか、ダラダラと長い時間をかけて録音するのが当たり前になってしまったが、自分はスタジオ・ライヴ的な一発録音の緊張感溢れる方が好ましいと思ってしまうクチである。それにしても、フュージョン・ブームの頃、人気のアーティストたちは本当に上手かった。

 

アナログ盤を愛する人間として、デジタル録音のアナログ盤というものが意味するところは昔から気にはなっていた。デジタル録音だからといってその盤の魅力が減ずるものではない。自分の場合、ジャケットも含め、パッケージとしてのアナログ盤が大好きなのである。どういった手法で録音されていようが、そこはあまり関心がないとでも言おうか。見なかったことにしよう的な部分である。デジタル・メディアはカットされている情報があるとはいえ、やはりノイズが少ないのは魅力的である。アナログ盤のサーフェス・ノイズは全く気にならないが少ないに越したことはない。年齢を重ね、だんだん針を落とすことが上手く行かなくなってしまった昨今、ボタンを押すだけの手軽さはやはりいいなと思ってしまうのである。TPOで使い分ければいいではないか。

 

 


We Begin / Mark Isham Art Lande (1987)

         
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