0008 ベン(2015.05.23.

先日、ダウンタウンレコードで7インチ盤をあさっていたら、店主が「これまだ探していますか?」と声をかけてくれた。手に持っていたのは、マイケル・ジャクソンの「ベンのテーマ」の7インチ・シングルである。あまりに綺麗なブツに、わが目を疑う程だった。もちろん、探しておりますとも。自分が洋楽にハマる原因となった数曲のうちの一曲である。それなのに、入手できていなかったのである。何と有り難いことか。

 

1972年の映画「ベン」は、「ウィラード」というネズミがいっぱい出てくる映画の続編である。「ウィラード」には白いソクラテスと黒いベンという2匹のネズミが登場する。どちらも人間とネズミが心を通わせるストーリーだが、動物パニック映画とも言われ、カルト映画的な扱いを受けることになっている。詳しくは書かないが、「ベン」のエンディングで流れるこの曲は日米でヒットした名曲なのである。

 

1958年生まれのマイケル・ジャクソンは5歳でジャクソン5に加入したという。ジャクソン5でヒット曲を連発した後、ソロ活動も始める。1971年、13歳のときにファースト「ガット・トゥ・ビー・ゼア」をリリース、翌年にセカンド・アルバムとして「ベン」がリリースされるのである。つまり14歳のときの作品である。この心に染み入るバラードの名唱、やはり彼は天才である。

 

以前に何度も書いたことだが、自分は小学校4年生のときに広島から東京に出てきて、東京の小学校が合わず、すっ飛んで帰宅して音楽ばかり聴いていたために猛烈な音楽好きになってしまったのだ。ラジオにかじりついて「ハッピー・トゥゲザー」や「ソウル・トゥ・ソウル」といった番組を聴いていた。どちらも文化放送の番組である。おそらく、AMでも音がよかったのだろう。母親も音楽が好きだったこともあり、アイワのカセットデッキを買ってもらい、エアチェックしながら好きな曲が定まって行った。紙の箱に入った市松模様のついた東芝のカセットセープが大活躍した。繰り返し重ねて録音してしまったので、傷むのは早かったが、今でもあのカセットテープは忘れられない。

 

そのテープに「ベンのテーマ」も入っていたのである。その他には、ギルバート・オサリバンの「ゲット・ダウン」、デヴィッド・ボウイの「スターマン」、CCRの「サムデイ・ネヴァー・カムズ」などが入っていたことは記憶しているが、他は忘れてしまった。こう見ても、いずれも1972年のヒット曲である。ここらが自分の原点だったように思う。もう少し前、アバの前身、ビヨルンとベニーの「木枯しの少女」と言う曲も大きく影響した記憶はあるが、この曲は上手くカセットテープに収められず、後々になってから好きだったことを思い出し、7インチを入手し、涙したものだ。

 

音楽はいろいろな記憶とリンクしている。いくつかの曲が人生のBGMのようになっている方もいらっしゃるだろう。自分の場合は、辛く鬱々とした少年時代の記憶が蘇ってくることもあり、今更聴きたくない曲もあることにはあるが、1972年というこの時期の自分を元気づけてくれた曲は、いまだによく聴いているのである。今回、「ベンのテーマ」を入手できたことで、また脳みその襞の奥の方が刺激されたようだ。レコードからCDに切り替わった1980年代後半に随分お安く集めたコレクションではあるが、またしっかり整理して、好きなものはいつでも聴けるようにしたいと常々考えている。

 

ロックを聴き始めた頃から演奏がどうのと言い始めてしまうのは皆さん一緒なのだろうか。自分の場合、昔風に言うところの「ヒット・パレード」、つまりベスト・テンのようなヒット・チャートものに登場するこの辺の曲が好きということもあり、どちらかというと、演奏志向は弱く、メロディ志向が強い。印象的なメロディが出てくる曲が好きというのも、おそらくは褒められた音ではないラジカセで文化放送などの番組を一生懸命聴いていたからなのだとは思う。ラジオで聴く音楽は、細かなニュアンス等はさておき、インパクトのあるメロディが勝負である。昔は皆そうだったのかもしれない。

 

マイケル・ジャクソンは、「スリラー」や「ビート・イット」などのモンスター級の大ヒット曲が多くあるので、どうしても1980年代のイメージが強い。またジャクソン5の子ども時代が懐かしいという方も多いことだろう。しかし、自分にとっては70年代初頭、ラジカセのスピーカーから流れてくる「ベンのテーマ」に毎度聞き惚れてしまったことを思い出さずにはいられないのである。2015年になって、突然忘れていた記憶が蘇ってきて少々困惑気味ではあるが、いいものはいいということで、是非皆さんにも聴いて頂きたい名唱なのである。

 

 


Ben / Michael Jackson (1972)

         
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