0018 アメリカ物語(2015.08.01.

安保関連法案のバタバタで、久々に憲法関連の議論が巻き起こっている。自分は憲法訴訟ゼミの出なので、一般の方よりは日本国憲法を目にすることが多いほうだとは思うが、あの憲法に特別思い入れがあるわけでもない。アメリカから押し付けられた憲法などと言われながらも、平和憲法として崇めるものが他にないのだから、大事にしていくべきだとは思う。その一方で、あの憲法があったから平和が続いたとも思っていない。日本の歴史上、他に類を見ない長い無血状態が続いている現在、積極的に平和を維持する必要が出てきたのかと考えなくもないが、今回の安倍政権の強硬的な態度の裏には、「どうせアメリカとの密約があるのかな」などと勘繰らないでもない。

 

地理的に国際平和の重要な要に位置する日本において、微妙なバランスの上で維持されている無血状態を一日でも長く続けて欲しいが、結局のところ、アメリカ軍の傘の下で維持された平和なのかと思うと、国のお役人もいろいろご苦労があるのだろうと気の毒に思わなくもない。国の独立性などというものを考えると余計に難しいことになるが、アジア民族の大団結など有り得ない現状、属国に堕することなく、都合のいい程度にアメリカ軍の戦力をあてにするなどして、狐的な態度で平和維持をはかるのもありなのかとも思う。結果的に70年もの長きにわたり無血状態を続けてくれた、ぬらりくらり政策に感謝しないではいられない。象徴的存在の天皇を担ぎ出すまでもなく、米軍基地の縮小を唱えるからには、多額の税金を拠出してでも、積極的に平和を維持するしかないのか。嫌な時代になったものだ。

 

「アメリカ物語」を憶えている方はどれくらいいるのだろうか。1986年に公開された長編アニメ映画である。スティーヴン・スピルバーグが初めて手掛けた長編アニメであり、大ヒットを記録した。リンダ・ロンシュタットとジェームス・イングラムが歌った主題歌「サムホエア・アウト・ゼア」は、1988年のグラミー賞最優秀楽曲賞を受賞した。アカデミー賞のほうはノミネートのみで受賞はしていないが、誰もが認める名曲だろう。サントラ盤には主人公のネズミ、ファイベルが歌うヴァージョンも収録されており、実はそちらの方が好きだったりする。

 

この曲の作曲者、ジェームズ・ホーナーの訃報が舞い込んできたのは今年の6月末ごろだった。ご自身が操縦する小型飛行機が、6月22日、カリフォルニア州の森林公園内で墜落したのである。61歳の死は少々早い気がする。彼は映画音楽専門の作曲家なので、ポピュラー・ミュージックの世界では、あまり名が通っている方ではないが、驚くほど多くの映画の曲を手がけている。ほんの一部を挙げると、「アメリカ物語」のほかに「48時間」「コクーン」「ニューヨーク東8番街の奇跡」「フィールド・オブ・ドリームス」「今そこにある危機」「ブレイブハート」「アポロ13」「タイタニック」などなど、キリがない。

 

思うに、最近の映画音楽はロックやR&Bなどのチャートに入ってくるような曲が多く使われているが、ジェームズ・ホーナーの曲は古き良き時代のテイストが感じられる、いかにも映画音楽といったものが多いのである。結局のところ、美しいメロディが書ける人だったと思うが、そんなところがポピュラー・ミュージックとは別の世界で活動していたような印象を与えている。こういった作曲家がいるあたり、ハリウッドの底力をも感じるのである。

 

結局のところ、自分のようにアメリカの強さに憧れるように教育されて育ってきた人間は、ヴェトナム戦争や建国200年祭前後のアメリカに対して、盲目的に憧れを持っていた訳ではないのである。ウォーターゲート事件などは、だからどうしたといった感想しか持たなかったが、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」で突きつけられたカリフォルニア幻想の主張には非常に悩ましい思いをしたはずである。荒れ狂うロンドン・パンクなどを横目で見ながら、「アイ・ラヴ・ニューヨーク」キャンペーンで自浄力をつけていくさまも面白おかしく感じながら、映画俳優が大統領になれる国を、不思議な、そして複雑な感情を抱きながら、慕ってきたのである。

 

自分は、共和党のアメリカは大嫌いだったが、結局のところ、フェンスの向こうのアメリカに憧れていたのである。基地のある地域経済を目の当たりにしてきた者にとって、今の状況は何とも複雑な心境にならざるを得ないのである。安保関連法案の議論だって、いきなり短絡的に戦争反対という論調になるのはいかがなものかと思う一方で、強引な安倍政権のやり方に辟易とすることも確かである。もう少し冷静に、例えばグーグル・アースで地球を見るように日本を俯瞰的にみたとき、違った考えも浮かぶのではなかろうか。ネット上の活字などに流されず、自分の意見を持っていたいと思う昨今である。

 



         
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