0024 カフェで交錯する人生模様(2015.09.12.

清澄白河でカフェを始めてから9カ月が過ぎたが、この間いろいろな方と知り合いになれたことは、やはり自分にとって大きな収穫だ。このカフェのキッチンから見えるものを一冊にまとめると、相当面白い読み物ができそうだと思うほど、面白い人生が交錯する場となっている。それはお客様でもそうだが、スタッフにおいても同じで、音楽好きであったりカフェ好きであったり、それなりに共通する部分は持ち合わせていても、織りなす人生は人それぞれ、実に面白い人間が集まってくる。無難に就活して大きな組織で事務職や営業職で生きていく人生とは、正直言ってダイナミクスが違う。自己実現の要求度合いのはるかに高い人間が集まってくる。面白くないわけがない。

 

一方で客席に集う人々も、単にまったりとしたカフェ好きだけというわけでもない。こちらも音楽好きばかりが集まってくるわけではなく、たまたまご飯を食べそびれたご近所さんが寄ってくれ、そのまま話し込んで行ったりもするので、カフェ・オーナーという立場は実に豊富な情報源を持つこととなる。営業職などであれば、いろいろな職業の人間と接する機会も得られようが、自分が役所でやっていたような事務職では、有り得ない世界の広がり方とでも言おうか、単に面白いで済まされるレベルではない交流が展開されることとなる。隠れ家的な作りのせいか意外な需要もあり、俳優さんがロケ弁を食べる場所として使われたりもする。面白いものだ。

 

自分の場合、ソーシャルな活動をする場としてもハコが必要と考えてカフェをつくったという事情もあり、そういった思惑が人を繋げることもある。東京シャボン玉倶楽部という活動をしているOさんというお客様も面白い交流をさせていただいている一人だ。彼は1980年代の音楽が好き…というか、そういう世代と言うべきか。アラフォーといった世代は青春時代が80年代なので、洋楽好きが多いとも言える。彼もその典型だ。最初は音楽の話題から会話が始まり、次に同じアパートの仲良しさんに広めてくれたり、奥さんを連れてきてくれたりもした。奥さんは奥さんで、うちに置いてあったソーシャルデザイン系の冊子の中にダンナさんの写真を見つけ、意外なところで繋がっていたことを発見してくれたりもした。

 

またシャボン玉セットを多数提供してくれ、物販棚に置いておいたところ、小さなお子さんがいるママ友さんたちが一つの中心顧客層でもあるウチと、あまりに相性がよろしかったようで、大変ご好評いただきあっと言う間に無くなってしまった。Oさんご夫婦は最近入籍されたのだが、有り難いことに同じアパートに住む仲良しさんたちが企画したサプライズ・パーティにまで参加させていただいたりもした。お客様とこんなかたちでお付き合いをさせていただけるカフェ・オーナーもそうそういないのではと思うが、いかがなものだろうか。

 

またご近所でガラス加工の工場を営むSさんは、度々ビールを飲みに寄っていただけるのだが、最近ビール瓶を加工してグラスにする事業を始められた。自分としては、輸入ビールの瓶がワンウェイでリターナブルではないことに非常に頭を痛めていたので、これ幸いと空き瓶を寄贈させていただいた。ソーシャルデザインだのと大上段に構えるよりも、こういったリサイクルやゴミを減らす工夫を積み重ねることの方が性に合っているところもあって、今回のご縁は非常に嬉しいものなのである。しかも出来上がったグラスの展示販売も、ウチの物販棚を使ってできないかと検討している。まさに理想の展開なのである。

 

このカフェはイベントスペースとして活用していただくことを念頭に作られたものだけに、ギャラリーとしても機能するよう、ピクチャー・レールがぐるりと設置してある。普段は自分の好きなレコード・ジャケットがフレームに入れて飾られているが、いざとなれば小さなアート・ギャラリーにもすることができる。ただし、そういった飲食店としての基本的な機能以外の部分でばかりPRしたところで、美味しさというものさしで評価が得られなければ格好悪いことになるような気がしてならない。そんなわけでイベントの誘致やソーシャルな活動のPRなどばかりが先行するのは、決して好ましいとは思っていない。何はともあれ、まずは美味しいと言っていただけることが第一と考えている。

 

そう言い続けていたのだが、ここにきてイベントが続くような状況となり、そろそろカフェ・ジンジャー・ドット・トーキョーの付加価値的な部分のPRも始めていいのかもと思い始めたのである。まずはSNSなどでPRをしていくことからだろう。また、自分の意思表示として、壁面の展示にももう少し注目していただけるよう、飾るジャケットを真面目に検討しようかとも考え始めた。まずは象徴的なものとして、リー・モーガンの「サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド」を飾ってみた。射貫くようなリー・モーガンの視線が印象的なジャケットは、ブルー・ノートらしいデザインでもあり、非常に好きなものである。この一枚のジャケットから、今後の活動を読み取っていただけるとは思っていないが、様々な人生模様が交錯する中で、その先にある新大陸を象徴するものとして、飾っておきたいと考えた次第である。

 



         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.