0029 カフェでハードロック(2015.10.17.

心地よいカフェのBGMとはどういうものか、カフェのオーナーとしてはお客様のことを慮って邪魔にならないものは何かという基準が重要なものになる。自分の判断で、小さなお子さんがいる場合やビジネス・トークをされている場合、少しボリュームを絞る。音楽を聴きにくるお客様ばかりではないので、その辺はこだわり過ぎないようにしているといったところだ。やはり無難なのはビートルズとジャズ、と言われることもあるが、毎日聴かされる側としては、そうも言ってはいられない。インコグニートのようなダンサブルでいてスローな曲が多いものも、ランチタイムにはよくかけている。ロニー・ジョーダンもいい。

 

そんな中、最近ハードロックをかける機会が増えている。お客様からご要望があるからだが、ヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」やヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」などは多くかける方の曲である。ホワイトスネイクやデフ・レパードも聴き易い。ただしボリュームを上げ過ぎると不味いことになるので気をつけないといけない。ジミー・ペイジ&ブラック・クロウズのライヴもツェッペリン・ナンバー+ブルース・クラシックで適度な音量だと案外心地よい。むしろ突き刺さってくるのは、フリートウッド・マックの初期音源やジョニー・ウィンターといったブルースものだったりする。実にエッジが立っている音なのである。一方でマイルス・デイヴィスの「TUTU」など、意外なほど輪郭が丸く、そこに突き刺さるようなマイルスのトランペットが心地よい。BGMとしても心地よければ、じっくり聴き入ってもよい。あらためて素晴らしい音源であると思う。地を這うようなマーカス・ミラーの低音処理が、色褪せないどころか新鮮ですらある。

 

7インチを多く取り扱っている昨今、産業ロックと言われたジャーニーやスティックスといった連中もよくかける。シングル曲がヒットしたのだから聴いていて楽しいものではある。ボストン、エイジア、フォリナー、トトといったあたりは、どうしてもアルバムでなければというものではないかもしれない。昔のことは分からないが、自分がリアルタイムで音楽を聴き始めた1970年代以降、ロックはLPすなわちアルバム単位で聴くものという感覚があった。ヒット・チャートを上ってくるポップスと、アルバムの展開を見据えた曲の並びなども気になるロックなどは、全く別物だったような気もする。

 

各種プログレッシヴ・ロックやレッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ジェフ・ベックやエリック・クラプトンなども含め、アルバムが出れば必ず買うミュージシャンはいろいろあったが、そういった連中のシングル・カットがヒット・チャートを上ってくると、驚きとともに応援したくなる感覚もあった。例えば1978年頃は、サタデイ・ナイト・フィーバー旋風が吹き荒れ、特大シングル・ヒットを連発したビージーズがチャートの上位を独占する中、ローリング・ストーンズの「ミス・ユー」、エリック・クラプトンの「レイ・ダウン・サリー」、フォリナーの「ホット・ブラッデッド」、クイーンの「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」と「ウィ・ウィル・ロック・ユー」などが大ヒットした。スティックスの「カム・セイル・アウェイ」やボストンの「ドント・ルック・バック」もこの頃だ。全米トップ40を聴くのが楽しみだった時期でもある。

 

面白かったのはそこから数年で音楽を取り巻く環境が大きく変わったことだ。映像の時代の到来をバグルスが告げ、パンク後のニュー・ウェーヴの連中がロックというカテゴリーを押し広げ、細分化が始まり、ヒット・チャートは何でもありの状態になっていった。REOスピードワゴン、スティックス、ELOなどのロックバンドはまだしも、ブロンディやジョン・クーガーなどもロックのイディオムでヒットを連発する時代となっていったのである。ヴァン・ヘイレンまでもがチャートの上位にランク・インするとは予測できなかった。自分はザ・ポリスの「見つめていたい(エヴリー・ブレス・ユー・テイク)」やイエスの「ロンリ・ハート」の大ヒットは予測していたが、その後のLAメタルなどのヒットは予測不能どころか理解不能だった。

 

マイケル・ジャクソンが「ビート・イット」や「スリラー」でダンスの概念を刷新していった時期、クワイエット・ライオットが「カモーン・フィール・ザ・ノイズ」と叫べば、ブルース・スプリングスティーンは「ボーン・イン・ザ・USA」とシャウトし、世界的にハードな音が満ち溢れていたのも80年代なのである。フュージョン系の音も魅力的ではあったが、ベスト・ヒットUSAとともに、ハードロック/ヘヴィメタルがお茶の間に浸透し、ミュージック・クリップでは、長髪で脚の細いお兄さんたちがキレイなお姉さんと絡んでいたのである。実に分かり易い短絡的なものではあったが、格好良かったな。極めつけは、やはりデフ・レパードやボン・ジョヴィの世界的ヒットだろう。うん、カフェでハードロックも悪くない気がしてきたぞ。

 



         
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