0030 ウィルコとハリウッド・ヴァンパイアーズに思う(2015.10.24.

ウィルコの新盤「スター・ウォーズ」が届いた。オフィシャル・サイトでフリー・ダウンロードというかたちで発表され、その後CDがリリースされ、ようやくアナログ盤が発売になった。実験的なことが好きなジェフ・トゥイーディが久々にノイズ系の本領を発揮しているということで楽しみにしていた盤である。実はある方からルー・リードへのオマージュが見て取れるということを聞かされていたから、尚更楽しみになっていたのだ。ルー・リードが他界してからまもなく2年が経とうとしているが、彼の死後、「ベルリン」を繰り返し聴くなどして、彼の音楽を聴く機会が増えていたのである。実はリアルタイムでは全く理解できず、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも含め、全く評価していなかったのだ。そもそもビートルズですら21世紀になって聴き始めた人間である。45年も洋楽を聴き続けてきた割には、ひどく偏っている自覚はあるのである。

 

さて、ウィルコだ。ウィルコの場合、ちょいと危険なのでお客様が入っているときに大音量で流しっぱなしにはできないのだが、カフェでお客様がいないことをいいことに、いきなり大音量でかけてみた。一曲目「EKG」のノイジーなさまに思わず笑った。音質から古いチープなB級SF映画でも連想させたいのかと思わなくもないが、その後の曲がすべてポップでメロディアスなので、世評がこの一曲に引っ張られているのではないかと思わなくもない。相変わらず随所に光るメロディが潜んでいる、実にウィルコらしいアルバムではないか。とにかく前作よりは好きになれそうだ。そのことを確認し、まずはどういった印象をもったかというと、イーノの「ウォーム・ジェッツ」っぽいなということだ。

 

2回続けて聴いた段階で、これは面白いぞと思い始め、結局4回ほど繰り返し聴いて、やっぱりウィルコだなと思った次第である。如何せん、短い。11曲があっという間に終わり、もう一度聴きたくなる。何だかジェフ・トゥイーディの術中にハマったような気もしてくる。ジェフ・トゥイーディはジョン・ケイルからの影響とテレヴィジョンのギターワークが好きだということを公言しているが、いずれも納得がいく。実験精神、ノイジーでチープなギター・ギターリフ、必要かどうか分からないサウンド・エフェクツはお遊びか、単なるポップではないという主張なのか。そして、言われてみればヴォーカル・スタイルはルー・リードに通ずるものがある。4曲目の「ザ・ジョーク・エクスプレインド」など、まんまだ。

 

またそういう耳で聴いていたせいか、今回のアルバムでは、徐々に盛り上がっていくような曲調で段々オーバーテイクしてくるSE的な音はエスビョルン・スヴェンソン・トリオのベーシストがSE的に出す音に似ているなとか、次々と気になってしまう。ただし、極め付けは、「このリズムは聴いたことがあるぞ、誰だっけ?」と思う曲がいくつもあるが、いずれも昔のウィルコの音であることに気がつき、また笑ってまう。ウィルコはウィルコだということか。いずれにせよ、今現在最も注目すべきメロディメーカーであることは間違いない。

 

同じ日にもう一枚届いたアルバムがある。ハリウッド・ヴァンパイアーズだ。アリス・クーパーとジョニー・デップとジョー・ペリーのバンドということだが、お目当ては超豪華ゲスト陣である。ポール・マッカートニー、ジョー・ウォルシュ、デイヴ・グロール、ブライアン・ジョンソン、スラッシュ、キップ・ウィンガー、エイブ・ラボリエル・ジュニアにザック・スターキー等々凄いメンツだ。オリジナル曲はアタマ2曲とラストのみ、残りはベタなクラシック・ロックのカヴァー中心で、A面からザ・フーの「マイ・ジェネレーション」やレッド・ツェッペリンの「ホール・ロッタ・ラヴ」が飛び出してくる。

 

とりわけ面白いのは後半で、C面はバッドフィンガーの「カム・アンド・ゲット・イット」、Tレックスの「ジープスター」、ジョン・レノンの「コールド・ターキー」、ジミヘンの「マニック・ディプレッション」という選曲、しかもいかにもなポール・マッカートニーの声とエイブ・ラボリエル・ジュニアのずっしり重たいドラムスが聴こえており、笑いが止まらない。D面にはセルフ・カヴァーとも言えるアリス・クーパーの「スクールズ・アウト」からピンク・フロイドの「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォールPt2」へのメドレーという面白い曲もある。猛烈に良い音と演奏クオリティの高さは違和感があるほどで、実に偉大なるコピーバンドなのである。こんな楽しいことをやっているなんてズルイなぁと思いつつ、こちらもちょっと忘れられない一枚になりそうだ。実はどれが誰のギターか分からないことが悔しいのだが、最近はアクティヴ回路のピックアップを使ったデジロック的なギター音がハードロックの世界では主流なのだろうか。妙に気持ちがいい音だ。

 

ウィルコのあえてノイズ系のオルタナ・ロックだという主張を感じる音と、ハリウッド・ヴァンパイアーズの妙に突き抜けた気持ちのいい音、比べるべき対象とは思えない両者だが、音質的には吸血鬼に軍配があがりそうだ。ただし面白いもので、将来的に繰り返し聴くことになりそうなのは、ウィルコの「スター・ウォーズ」という気がする。そう言えばウィルコのジャケットは毎度わけの分からないデザインだが、今回の猫のジャケットも妙に気持ち悪いなと思っていた。それがレコード盤が届いて納得した。内袋の不気味さといったら、しばらくフリーズして見入ってしまうほどなのだ。どうもこの連中のオルタナティヴな感性には、まだまだ飽きることはなさそうだ。

 



         
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