0032 7インチ盤市場の異変(2015.11.08.

先日旧友と会うため、新宿に出る機会があった。ついでに久々中古レコード店を覗いてみたが、相変わらずの盛況ぶりに驚いた。アナログ・レコードの売り場スペースは拡大され、7インチ盤も随分多く店頭に置かれるようになっていた。そして多くのお客さんが昔ながらのスタイルでレコ漁りに励んでいるのをみて、何だか不思議な気分になってしまった。時代は巡るということか、アナログのよさは着実に見直されているようだ。

 

若い店員には気の毒な状況のようで、リアルタイムに経験していない時代のことをいろいろ質問されて困り果てている様子だった。自分よりも少し上の世代の酔客が、質問しているのか、からんでいるのか、自慢話をしているのか分からないような様相で、周囲の顰蹙を買っていた。そもそも昔とジャンル分けが随分違っていることもあって、昔ながらのレコード趣味人にとっては探し難いこと極まりないが、これも最近始まったことではない。自分も45年間同じ趣味を続けているが、馴染めないジャンル名があるにはあるし、馴染みのないジャンル名が書いてあるところに、馴染みのあるミュージシャンの盤が置かれていることは多い。困ったものだ。

 

さて、7インチ盤はシングルも昔で言うEPも全てひっくるめてEP盤と呼ぶようだ。EP盤のコーナーが随分充実しているのには、本当に驚かされた。そして中身を見てがっかりした。盤の枚数は増えているが、しかも自分が興味のあるミュージシャンの盤も多くあるが、とても手を出す気にならない代物ばかりなのである。理由は二つある。まずはお値段が異様に高くなっている。普通で千円以上しているし、4千円とか8千円といった、7インチ・サイズの盤にあるまじき値札が付いている。7インチ・シングルは、定価が700円まで上昇してCDに消されてしまったメディアなので、よほどレアなものならまだしも、700円より安い値段で売って欲しいものだ。自分も最高にレアだと思えるものや、思い入れの強い盤で売りたくない場合、2千円の値を付けることはあるが、それより高く評価することはない。たかが7インチ、それ以上は有り得ない。

 

もうその時点で買う気は失せていたのだが、さらにどうにも気に入らない理由がもう一つ見てとれた。ほとんどの盤が輸入盤なのである。つまり国内盤のようなスリーヴもない、丸い穴の開いた紙袋に入っているだけで、レーベルの曲名を見て確認しなければいけない盤ばかりなのである。確かにビートルズもローリング・ストーンズもレッド・ツェッペリンも、英国盤がオリジナルだろうから、その価値は認める。しかし、7インチ盤に関する限り、輸入盤にはさほど興味がない。何故なら、リアルタイムで売られていた頃、輸入盤の7インチ・シングルなんぞ見たことがなかったではないか。専門店に行けばまだしも、自分が7インチ・シングルを購買対象としていた1970年代中頃までは、町のレコード屋さんに輸入盤は置かれていなかった。洋楽の輸入盤が欲しい場合、せいぜい御茶ノ水のディクスユニオンあたりまで足をのばす必要があった。

 

結局のところ、自分が7インチ盤に興味があるのは、自分が過ごしてきた時代の記憶とリンクしているからで、やはり国内盤のあのスリーヴがないと満足できないのである。ジャズはとにかくアルバムで聴くものというイメージもあるし、ロックも多くはアルバムで聴くことを前提に作られていたように思う。そこからシングル・カットとして切り出してくるのは、アルバムの代表曲やキャッチーなメロディを持った単体で勝負できる曲であろうから、存在価値や販売する目的は全く別なのではないかと思うわけである。

 

もちろんレコード盤であるから、そもそもの存在理由は音が出ることにある。それはLPであれ7インチ・シングルであれ、絶対的な存在理由となる。ただ思うに、LPは輸入盤であれ、国内盤であれ、皆ジャケットがある。ジャケット・アートの魅力というものも、語り始めたらキリがないものであり、明らかに付加価値がある。7インチ・シングルの場合は、何故スリーヴが無くて許されるのか、不思議でならない。国内盤は写真などが印刷された紙袋に入っている場合やペーパー・スリーヴ付きがほとんどで、自分など、そこに書かれた謳い文句が時代を反映しているものであれば、それはそれで別の付加価値とすら考える人間なので、スリーヴがない盤の価値は激減してしまうのである。

 

また、現存するものに限って言うと、どうしても歌詞を読んだりするために手の皮脂がつくからか、スリーヴはカビっぽいものが多く出回っているのである。これを見極めることもなかなか難しいのだが、それだけに状態がいいものは数が限られており、価値もある。70年代に名盤を連発していたベック・ペイジ・クラプトンの3大ギタリストのアルバムは、それこそ猛烈な数が世の中に出まわっているのであろう。一方でシングル・カットされた有名曲でも、7インチ・シングルの状態のいいものは滅多にお目にかからなかったりする。手元にあるジェフ・ベックの「悲しみの恋人たち」やレッド・ツェッペリンの「トランプルド・アンダーフット」の7インチ盤などは、アルバムが売れた分、余計にレアな気もする。状態がいいこともあって、やはり2千円の値札を付けるとは思うが、とても手放せない代物なのである。

 

 



         
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