0034 ミューザ川崎はいいぞぉ(2015.11.22.

久々にライヴに行ってきた。かわさきJAZZ2015というイベントがあり、その中のリー・リトナーを中心としたスーパー・セッションである。会場がミューザ川崎シンフォニーホールという新しめの小ぶりなハコだったこともあり、楽しみにしていたものだった。とにかくベースがエリック・クラプトンのライヴでおなじみのネイザン・イーストであることと、スペシャル・ゲスト二人がイヴァン・リンスと国府弘子という、好きなミュージシャンだらけのメンツなのである。これを見逃す手はない。友人がとってくれたチケットは、1階センター・ブロックの6列目という最高にいい席のものだった。パイプオルガンがあるところからして、クラシック専用のホールなのだろうが、ステージが低くつくられており、立って演奏するリー・リトナーの目の高さが、少し傾斜のある客席の6列目に座っている自分の目とほぼ同じレベルなのである。まるでジャズ・クラブで観ているかと錯覚しそうな近さで、嬉しいこと極まりない。

 

また、メンバーを見てチケットの安さも納得していた。如何せんドラマーはリー・リトナーの息子のウェズリー・リトナー、ピアノはネイザン・イーストの息子のノア・イーストなのである。行政が主催しているイベントのギャラがいいわけはない。安さと引き換えに息子たちに経験を積ませるいい機会とみたか、といったところである。それでも超一流のプロがそうそうヤバイことはしないだろうから、それなりのものなのだろうと期待はしていた。ただノア・イーストに関しては、まだ子供子供した若さに驚かされたが、何とか無難にこなしていた。ネイザン・イーストが日本デビューを飾る息子をハンディカムで撮っているあたりは微笑ましくもあり、何とも温もりを感じさせるライヴではあった。

 

一方のウェズリー・リトナーは、もう十分一人前と感じさせるドラミングだったが、若干丁寧過ぎるようにも感じた。時々親父さんに睨まれた、煽られたりしながらも、堅実なドラムスを叩いていたが、実際のところはどうなのだろうか。デイヴ・ウェックル・スタイルを目指していると言いたげなタイトなリズムはかなり好印象だが、パワフルというわけでなし、手数が多いというわけでもなし、個性を確立するまでにはもう少し時間がかかりそうな気もする。どうせ小さいころからいっぱい音楽を聴いて育っていることだろう、今後に期待したいといったところだ。

 

ライヴはほぼ定刻に国府弘子によるイントロダクションから始まった。ネイザン・イーストのベースとウェズリー・リトナーのドラムス、そしてこちらもかなり若いブラジル人パーカッショニストであるマルコス・セザールに、国府弘子のピアノを加えてのカルテットでスタートしたが、直後にこのホールの音響の素晴らしさが見て取れた。元気印の国府弘子は昔から好きなピアニストだったが、川崎市文化大使などというお役を務めているとかで、まさにこの場に相応しい人材だったろう。思うにリー・リトナー、ネイザン・イースト、そして国府弘子には、とにかく楽しそうに演奏するという共通点がある。この人たちのライヴは、演奏することの楽しさが伝わってきて、好感が持てるのである。

 

意外なことに2部構成になっており、後半はイヴァン・リンスも登場して、大いに盛り上がりを見せた。もう少しラテンっぽいノリかと思っていたが、意外にしっとりとしたバラードが心地よい。ヤマハのキーボードの深みのある音色があまりに素晴らしく、このミュージシャンにさほど注目してこなかったことを後悔した。少し意識して彼のレコードにあたってみようという気になっている。

 

さて主役のリー・リトナーだが、今回はフルアコとレス・ポールの2本をとっかえひっかえ使っていた。あまりレス・ポール使いという印象はないのだが、さすがにツボを心得ているギターを聴かせていた。自分は圧倒的にレス・ポール派であり、フェンダーの中ではストラトキャスターよりテレキャスターの方が好きな人間である。ハコもののギターにハマった時期もないではないが、やはりレス・ポールがイチバン好きだ。そんなヤツの10メートルほどの目の前で、天下のリー・リトナーがレス・ポールを引きまくってくれるのだから堪らない。観客も残響すら聞き逃すまいといった態度で聴き入っているので、最高の環境だったと言えるだろう。

 

とにかく久しぶりのライヴだったこともあり、随分楽しめた。最近のホールは技術的にも優れたものになっているのだろうが、如何せん千人規模の小ぶりなホールで、ステージが近く感じられる構造が嬉しい。昔懐かしい新宿の厚生年金会館大ホールや、中野サンプラザ、渋谷公会堂などといった小ぶりなハコがどんどん無くなっていくことが寂しい。手頃な大きさとはいえ、仮設小屋のようなホールばかりになってきた昨今、オーチャードホールをはじめとした高音質を追及したホールは大歓迎だ。川崎市に対する印象が思い切り好転した一夜ではあった。

 

 



         
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