00387インチ盤が教えてくれること(2)(2015.12.23.

相変わらず7インチ盤の整理に明け暮れている。…ということで古物商取得の経過について前回お知らせしたが、やはり楽しくなければやる意味もない。元々が趣味の延長で始めたカフェの集客としてレコードを置いているわけで、音楽好きが集まって懐かしい曲について語り合っている時間の楽しさといったらない。そもそもがレコード整理ほど楽しい時間はないとすら思っている人間なので、その延長上にある作業は夢中になってしまう。時間を忘れてやってしまうので、最近は寝不足気味で辛いこともある。それでもレコードの整理がつくとともに、自分の記憶も整理され、忘れてしまっていたことを思い出すことも多く、実に楽しい日々を過ごしている。

 

音質的なことを優先すれば、洋楽に関してはオリジナル盤に絶対的な価値があるのかもしれない。しかし、自分の場合、スリーブがある国内盤に拘って買い集めたこともあり、音質について語る気は全くない。LPと比べればしれはシングル盤の方が音圧は高いことは分かるが、それなら12インチ盤の外周部を45回転で再生した時の方がもっといいことになる。好みの問題でもあるので、その音質の違いについては発言を控えたいところだが、そういった視点よりも、むしろどう記憶とリンクしているかといったことに重きを置き、時代を反映しているスリーブがあることの方が重要と考えているのである。

 

7インチ盤のスリーブを眺めていて、何が面白いかというと、時代を感じさせる謳い文句が笑えるのである。ともあれ、「ヒット・パレード」という言葉はいつの間にか使われなくなったが、7インチ盤のスリーブ上では、やたらと使われている。もちろん「ヒット・パレード急上昇中」といったかたちである。ビルボードやらポップス・ベスト10やらの具体的なチャート名はあまり使わないでヒット・チャートを言い表す言葉として使われている。7インチ・シングルの世界では、80年代に入っても、ひたすら「ヒット・パレード」なのである。

 

スリーブのデザインは、ファースト・シングルがだいたいアルバムと同じデザインだったりする。ところが、2枚目以降のシングルは、ミュージシャンの適当な写真だったりすることも多く、あまりのチープさに呆れるものもある。見た目のよさで人気があるわけではないミュージシャンの場合、使える写真も少ないのか、ひどいものもある。レコード会社のカネのかけ方にも差があるのだろうが、LPジャケットの色違いなど、もう少し頑張れと思いたくなるものは多い。一方でアイドル的要素のあるミュージシャンの場合、妙に力の入っているものもあり、その落差は激しい。

 

また洋楽の場合、ミュージシャンの来日コンサートと絡めていろいろな文言が印刷されていることも面白い。当時大人気だったフレンチ・ポップの代表ミッシェル・ポルナレフなど、1972年の大ヒット曲「愛の休日」は来日記念盤となっているが、一方で74年の「悲しみのロマンス」は、「6月来日要求盤」などとなっている。グラムロックの隆盛とともに一気に人気が下火になったフレンチ・ポップの歴史を現しているようにも感じる。

 

80年代になると12インチ盤の人気が7インチ盤にも影響していたようだ。来日記念盤は12インチの帯だけになってしまったような気もするが、1985年に初来日を果たしたブルース・スプリングスティーンなどは、やはり7インチも面白い。名バラード「アイム・オン・ファイヤー」は「来日期待記念盤」などというワケの分からないことが書かれているし、アッパーな「グローリー・デイズ」などは「歴史を変えた日本公演大成功記念盤」の文字とともに、「ファン必携データ付」ということでUSAツアー全日程と日本公演のセットリストがついている。何せシングル・カットする必要があったのかと思わせる名盤「ボーン・イン・ザ・USA」からの5枚目のシングルである。担当者の興奮が伝わってくると言うべきか。

 

やたらとシングル・カットされた名盤といえば、マイケル・ジャクソンの「スリラー」も忘れられないが、こちらはまた違った事情が見えて面白い。ファースト・シングル「ビリー・ジーン」はよくあるようにLP盤と同じジャケット写真(後日修正:…実は同じではなく同じ時に撮った写真でした、虎の子もいます、スミマセンでした)である。続く「ビート・イット」や「スタート・サムシング」は無難なポートレイト写真が使われているが、大ヒットしたタイトル・チューン、4thシングルの「スリラー」に関しては、もう少し何とかならなかったかと思う。ダンス・シーンが忘れられないミュージック・クリップの印象が強すぎるせいか、大名曲のシングル盤のスリーブは意外なほど地味な横顔の写真なのである。レコード店で探していても、見逃してしまいそうな一枚は、実際滅多に見かけない。4曲目、ポール・マッカートニーとのコラボ曲「ガール・イズ・マイン」を含めると5曲目となる曲だ。おそらく7インチ・シングルを買い求めたのは余程のファンかコレクターだったのではなかろうか。あれほどの大ヒット曲なのに、実はレアな一枚なのである。

 

斯様に7インチ・シングルの世界は、通常の音楽情報にはのらない面白い事情もあったりする。せっかくショップ・イン・ショップ的にカフェの中でレコード店を開設するのだから、7インチ盤専門店にしようかという考えもなくはない。古物商の中の分類では「道具商」ということになるらしいが、年明けにはまた少し面白い動きをご報告できそうだ。乞うご期待!

 

 



         
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