0039 音楽をシェアすることの意味(2015.12.27.

カフェを開業するにあたり、お店のシンボルにでもなりそうなマスコット的なものが欲しいと考えていた。ロゴにはレコード盤とコーヒーカップと猫が並んでいる。猫がいる猫カフェはあまり考えていなかったし、ウチの臆病な老巨猫にお出まし願うわけにもいかない。やはり音楽関係かと思い立ち、代々木のオーディオショップ「ヴィンテージ・ジョイン」を訪ねた。丁度一年前、2014年の12月のことだ。このサイトの読者の方は既にご存知だろうが、自分はあまりオーディオに詳しくない。高価なオーディオ機器でいい音が聴けるのは当たり前だが、同じカネをかけるなら一枚でも多くレコードが買いたいクチであるため、オーディオには最低限といえる程度にしかカネをかけない。オーディオ雑誌などを見ると欲しくなるので極力見ない。そんなやつがオーディオショップを訪ねるのだから勇気が要った。

 

ヴィンテージ・ジョインは代々木にあるマンションの一室で、普通のショップとは言い難いつくりである。中に入った瞬間、1950年代の倉庫にタイムスリップしたかと言いたくなるような光景が目に飛び込んでくる。壁面には、古めかしいラジオ・スピーカーなどが並んでいる。テーブルには7インチ盤のオートチェンジャーが置いてあり、その小さな筐体に一目惚れした。あの瞬間は忘れられない。その小さなオートチェンジャーを売ってもらえることになるまで、随分お店のオーナー、キヨト氏と話した。こんな事情でカフェの開業を控えているということで、シンボリックなものが欲しいのだと伝え、お願いしたのである。随分お安いお値段で売ってもらえたことには、本当に感謝している。

 

さて、そのヴィンテージ・ジョインのキヨト氏とそのお仲間たちといった皆さんがウチで忘年会を開催してくれた。主催者はアーカイ・パックというレコード関連グッズの会社を経営しているIさんである。お知らせ用のポスターまで用意してくれる気合の入り方で、ここら辺りが忘年会と言いつつ普通ではない気もする。皆さん、もの凄く拘る性質なのではないかと常々感じているのである。7月にモノラルシステムでアナログ盤を楽しむイベントを開催してくれたときも、あまりの細かい会話の中身に驚かされたものだった。

 

今回は忘年会と言いつつ、ちゃんと「和製ロック」というお題がある。そしてあまりにもディープでコアな内容に、再び唖然となるばかりであった。それでも、とにかく皆さん一様に楽し気で、場を提供しているこちらまでもが楽しくなってしまうイベントだった。こういう時はドリンクもフードも500円でサービスするが、もっとサービスしてもいいくらいだ。レコードもいっぱいお買い上げいただいて有り難いことこの上ない。イベントは12時からセッティングを開始し、14時スタート、20時までの長丁場だが、あっという間に終わってしまった感がある。マウンテンの「ミシシッピー・クイーン」の轟音からスタートし、途中フラワー・トラベリング・バンドの映像を観たり、和洋取り混ぜて素晴らしい音を堪能させてもらった。

 

思うに、ウォークマンが普及してから、音楽はグッと身近なものになり、手軽に楽しめるものとなった。ウォークマンもカセットテープからCDになり、MDになり、そしてメモリーを搭載しるものへと変貌していったが、結局のところ、それに付随してヘッドフォンで聴くというスタイルが主流となってしまった。元々は演奏会などが上流階級の社交の場として、定着していったと思うが、レコードなどの再生メディアが普及し、ホーム・オーディオが主流になったところで、一度はソーシャルなものからパーソナルなものへと変貌したはずだ。もちろんその後もライブで聴くコンサートなどはあり続けるわけで、同じ音楽を皆でシェアするスタイルは維持されているが、レコード再生というものは、ある程度パーソナルな趣味の要素が生まれてきたはずである。

 

ヘッドフォンによるリスニング・スタイルはより一層音楽のパーソナル化を加速化させた。ホーム・オーディオの衰退が急激だったことは、まだ記憶に新しい。最近の若い人たちはレコードの音を知らないということもあるのだが、スピーカーから大音量で鳴らして楽しむということをしたことがない人もいるらしい。スピーカーを鳴らして、音がどうの演奏がどうのといって語り合うことがないのかと思うと、何だか気の毒になってしまった。同じ時間と空間を、そして音楽をシェアしながら楽しむことがないのかと思うと、妙に寂しく感じてしまうのは、自分だけだろうか。

 

昨日のイベントは、確かにある程度以上の年齢のオジサンたちが好きなレコードを持ち寄ってああだこうだと難しいことを語っているものだけに、若者や女性には近寄り難いものだったかもしれない。それでも、皆さんの楽し気な顔が忘れられない。自分の居場所を探す必要もない、居心地のいい空気が流れているだけでも幸福なのではないかと思う。果たして今後、クラブやらコンサートといった時間と空間と音楽をシェアするような楽しみ方がどう変容していくのか、気にならないではない。

 



         
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