0042 デヴィッド・ボウイが遺したもの(2016.01.17.

デヴィッド・ボウイが18カ月に及ぶ癌との闘病の末、1月10日に69歳で亡くなった。冥福をお祈りする。特別好きという訳でもないと言ってはいるが、来日公演には行っているし、リリースされたレコードやCDは全て購入する程度には好きだった。ただ、余りにも先鋭的過ぎたか、自分の中でフェイバリットという扱いをしたことはない。もちろん「ジギー・スターダスト~」のアルバムは、それこそ数えきれないほど聴いているし、「アラジン・セイン」も大好きだ。これからも聴き続けるだろうとは思う。だって何はともあれ、格好良いではないか。唯一無二、他の人間がやっていないことを次から次へとやっていたのだから凄い。

 

とにかくジャズでいけばマイルス・デイヴィスだが、ロックで行けばデヴィッド・ボウイほど音楽的なスタイルを変えた人間も珍しい。「ジギー・スターダスト~」の大ヒット後、アメリカ・ツアー中に録音した「アラジン・セイン」は同じテイストのグラムなアルバムだったが、ツアー終了後に同メンバーで録音したカヴァー集「ピンナップス」を最後に、スパイダーズ・フロム・マースを解散してしまった。コンセプト・アルバム「ダイヤモンド・ドッグス」を挟んで次に録音された「ヤング・アメリカンズ」はフィリー・ソウルを意識した全く別な音楽になっていた。これを耳にしたときは、心底驚かされた。そこからシングル・カットされた「フェイム」は、ひとかけらのグラム臭もなく、またソウルフルというのでもない、独特の音楽だった。曲のよさもあって大ヒットしたが、どんどん進化していくデヴィッド・ボウイにファンがついていけないのではという感覚を覚えたことは忘れられない。

 

その後も、どんどんスタイルを変えてく中、「ヒーローズ」「レッツ・ダンス」「ブラック・タイ、ホワイト・ノイズ」など、時々大好きなアルバムをリリースしてくれるものの、それ以外のアルバムでは満足できたことはなかった。それでも、彼のバンドにはいつも素晴らしいギタリストが在籍していたこともあり、リリースされたアルバムはCDの時代になっても、買う価値ありと考えていた。エイドイアン・ブリューも、スティーヴィー・レイ・ボーンも、非常に個性的なギタリストだし、ジャンルが違うではないかと言いたくなる連中だが、それでもそういう人間を起用するあたり、凡人には理解できないほど先の先まで見据えて音楽を作っていたのかもしれない。理解し難い部分がある中でも、そういった先進性や音楽制作に対する拘りや真摯さは認めざるを得ない。だからこそ、買い続けてもいたのである。

 

彼は、ダウンロード配信の可能性もいち早く見抜いていたし、諸々の発言から日本贔屓であることも知られていた。ステージに歌舞伎の要素を取り入れたり、衣装の早替わりもやっていた。化粧も歌舞伎役者から学んだというが、さらに一歩進めて独自の世界を確立していたことは間違いない。彼なりの美的感覚は、研究熱心な性格によるものでもあると思う。一方で他のメディアとの関わり、特に役者として様々な映画やテレビ番組にも出演していたことには、ちょっとやり過ぎではと思わなくもなかった。才能があることは認めるが、如何せんルックスが個性的過ぎて、デヴィッド・ボウイ以外の何者にも見えないのである。「やめとけ」という印象が強い。ラビリンスの魔王ジャレスはハマっていたかもしれないし、戦場のメリー・クリスマスもいい味を出していたが、そこまでだ。

 

一方でサントラ盤は意外にいいものがある。「クリスチーネF」「キャット・ピープル」「(アブソリュート)ビギナーズ」など、非常に好きなアルバムである。面白いことに80年代に集中しているが、その前後は全く作っていない。要は興味の対象が移ろって行った結果なのだとは思うが、どんどん音楽スタイルが変わっていったこととも関連があるだろう。90年代から2000年代のアルバムは、映像も意識したサントラ盤のような内容のものが多いだけに、他人がつくった映像に音楽をつけるだけでは満足できなかったのかもしれない。

 

「デヴィッド・ボウイ逝く」という俄かに信じがたいニュースが伝わってきたとき、異星人も死ぬのかという妙な感慨しか浮かんでこなかった。翌日はカフェで一日中いろいろなアルバムを流していたが、寂しくなるなという程度であった。その次の日あたりからはお客様からリクエストが入り始め、多くの方がショックだったと言っていることで、あらためて彼の偉大さを知らされることになった。御贔屓にしていただいている、小さなお子さん連れの若いお母さんが並べてあるジャケットを見て「デヴィッド・ボウイ死んじゃったんですねぇ」と言われたときは、普段音楽を聴くようなそぶりを見せなかった方だけに、余計驚きを隠せなかった。

 

少し落ち着いてから、どう弔いをすべきか考えた。何はともあれ、全ての音源を聴きかえし、彼のことを思うことだろうか。レコード屋としては、お疲れさま記念セールでもやりたいところだが、7インチはほぼ売り切れ状態だ。40周年記念の7インチ・ピクチャーディスクは全部あるが、プレミアがついて普通に売れるものではなくなってしまった。どうも彼が音楽の世界に遺してくれたものは、先鋭的過ぎて理解が追い付いていないような気もするのである。晩年のアルバムも結構出来がいいのだから困ったものだ。どうもこれからじわじわと寂しさがこみ上げてきそうな気がしてならない。


P.S. 今日放送のJ-WAVE TOKIO HOT100では、デヴィッド・ボウイの新曲「LAZARUS」が、28年目にして初の快挙、初登場第1位を獲得した。あらためて敬意を表するとともに、ご冥福をお祈りする。

 



         
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