0045 レコ屋稼業は楽しいぞ(2016.02.07.

清澄白河でカフェを始めて早1年となる。1年もったという安堵感とともに、相変わらず厳しい収支に何とかならないものかと頭を悩ます日々である。地域のためにまだ何かできることはあるのではと、役所を辞めて始めたものの、思ったほどラクなものではなかった。長年公務員をやっていた人間が商売に向いているわけはないのだが、それでもたった一回の人生、やりたいことはやってから死にたい。外食をやるからには、まずは「美味しい」という評価を得ることからと思って1年を過ごし、次は少しPRも始めてイベント・スペースとしての活用を目指す段階に入ったと考えている。最終的には、美味しい介護給食などできないかと何段階かにわけて事業計画をつくったものの、現実は厳しい。

 

理想としては、カフェをスタッフに任せて、自分はイベント調整やらいろいろな周辺領域の作業に集中したかったのだが、結局カフェが回らなければ元も子もない。キッチンから離れられる時間の少ないことに呆れながらも、睡眠時間を削りつつ走り回っているような日々である。元々大好きなレコードも、カフェの差別化要件になるならと持ち込んだが、カフェの売りにするつもりはなかった。何故ならレコード好きが集まるカフェという売り方をしたら、自分がずっとカフェに居なければならなくなるからだ。それでは事業計画と矛盾することになる。中途半端な枚数を持ち込んで、カフェの雰囲気も思い切り中途半端になってしまったという後悔があるにはある。結局自分が居なければカフェが回らないという現実に押され、レコードを売りにするカフェの路線を少し押し進めたところ、音楽好きが集まるカフェという性格が強く出てきた。面白いものである。

 

しばらくやっていくうちに、7インチ・シングルを求めている人間が意外に多いと感じ始め、整理をしながら持ち込んでみたところ、売ってくれという要望が殊の外舞い込み、徐々に販売を始めた。警察に相談しても、自分のコレクションを売る分には古物商の免許は必要ないというので、売ること自体はさほど問題ないことになった。しかし、カフェを運営する法人が、代表個人から売れた分だけ買いとる決済方法をとるため、法人はやはり仕入れが発生する。諸々の事情を踏まえ、再三必要ないと言われながらも古物商の免許はとることにした。申請から約2カ月近くかかって、東京都公安委員会から正式に免許をいただけたのは1月の末であった。このタイミングならということで、カフェの1周年に合わせて正式にレコ屋として稼働させたというわけである。

 

ただし、あくまでもカフェの集客のためのレコ屋である。まずは7インチ盤専門店というスタイルにした。LPも1200枚ほど持ち込んであるが、これもご要望があれば適価でお譲りしている。値付けは相場ベースでなく、自分の感覚、自分にとって売りたくない度が高いものに高い値札がついている。結果として思い入れのないものはかなりお安い値札が付くことにもなる。また、個人のコレクションがベースなので、当然状態はいいものが多い。何度も書いたことだが、主要メディアがデジタルに切り替わった後もアナログを買い続けたことにより、お安く築いたコレクションであると同時に、クオリティが高いことになる。「こんな盤見たことない」「40年前のものが新品じゃん」などと言われることになる。さすがに音楽好きの方はその辺の事情を分かってくれるので、話していても楽しい。

 

カフェの1周年の2月5日、カフェは途中で名前が変わっていることもあり、1周年という言い方はあえてせず、「ショップ・イン・ショップの7インチ盤専門店オープン」という言い方で通してみた。ツイッター上では予想外に反響が大きく、前日からスマホがピコン、ピコンと鳴りっ放しのような状態になった。しかし平日にそうそうご来店いただけるものでもない。最初のお客様は夕方からとなった。遠来の方もいらっしゃれば、ダウンタウンレコードの口コミだという方もいらした。先着5名様に一枚プレゼントするサービスをしていたが、遠慮される方もいらしたりして、面白い世の中だとは思う。結果的にレッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」と「胸いっぱいの愛を」などがプレゼントとして旅立っていった。あれほどのクオリティのものはそうそう無いだろうから、きっと大事にされることだろう。

 

当日の朝、アース・ウィンド&ファイヤーのリーダー、モーリス・ホワイトの訃報が飛び込んできた。またかと寂しくなる気持ちを抑え、「太陽神」を繰り返し流しながらも初日の営業が終わったのは10時半過ぎ、レコードの売上げは大したことはなかったものの、カフェの売上げは記録的な数字となってしまった。

 

カフェの片隅に7インチ盤が1300枚ほど、意外なクオリティと品揃えで置かれている、世界でも最小規模のレコ屋が清澄白河にオープンした。何かと話題の多いこのまちで、サブカル発信することの楽しさは何物にも代えがたいと感じている。このデジタルの時代に「7インチ盤専門店」もあったものではなかろうが、意外に好き者は多い。楽しい会話が交わせることも予想外だった。レコ屋稼業、意外なほど楽しいぞ。カフェGINGER.TOKYO内のショップ・イン・ショップ、7インチ盤専門店45rpm.tokyo、無事オープンしました。ぜひ、お近くにお越しの際は、お立ち寄りください。よろしくお願いいたします。

 

 



         
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