0046 スリーヴ付きに拘る理由(2016.02.14.

清澄白河のカフェGINGER.TOKYO内の7インチ盤専門店「45rpm.tokyo」がオープンして一週間が経った。何はともあれ、知っていただくことが肝心ということで、オープン記念セールをやってみることにした。値引きして原価割れすることはないと思うが、如何せん、店主の思い入れが強いものには高い値札がついているという、しょうもない店である。相場は時々レコ掘りに行ったときの印象程度は反映しているが、ビートルズやローリング・ストーンズは高めという程度のことしか分からない。強いて言えば、英国のミュージシャンは高めで米国は安め、オリジナル盤を珍重する向きはLPと同じだが、他店ではスリーヴの有る無しはあまり価格に影響していないようだ。面白い。

 

レコード盤は音楽等を聴くためのメディアであるという、100%正しい事実を突き詰めれば、スリーヴの有無は問題ないことになる。しかし、リリース当時の空気をも伝えるようなスリーヴ、LPのジャケットとは違う写真などが使われたスリーヴ、映画の有名なワン・シーンを上手くコラージュしてあるサントラ盤のスリーヴ、どれもこれも、7インチ盤のスリーヴは魅力にあふれている。よほど好きなミュージシャンのレアなものでもない限り、自分はスリーヴ無し、ディスク・オンリー盤を買うことはない。音がクリアと言われても、マトリックスの番号がどうのと言われても、スリーヴなしは物足りないのである。音だけで満足できるのであれば、デジタルでもいいことと変わりないような気すらしている。

 

例えばスージー・クアトロのシングルは「第●弾」というカウントアップして行く謳い文句が面白い。CMのタイアップの情報も、いい感じで刷り込まれている。スージー・クアトロの「輝きの第12弾 ロキシー・ローラー」は、「サケロック大関」とのタイアップが何とも懐かしい。LPであれば、帯にでも書かれるべき情報だろうが、7インチであれば堂々とスリーヴ本体にデザインされて刷り込まれているところが面白い。

 

ちなみにシングル盤の回転数「45rpm」を店名にしているわけだが、これに関しても面白い盤がある。古い7インチ盤には、レコード会社で統一したデザインの「45rpm」の文字が刷り込まれているのだが、例外があるのである。例えば「ゴジラ」のサントラ盤など、同じ字体の「45」の下に「rpm」ではなく、ひらがなで「かいてん」と書いてあるのである。メインのターゲットが子どもだからということか、ここまで自由にデザインされていたかと思うと感慨一入なのである。ちなみに、いつごろまで「45rpm」の文字が刷り込まれているかはっきりしないが、60年代のものなど、かなり大きな文字で描かれている。ステレオかモノラルかの表記も、70年代後半になるとほとんど無くなってしまうが、70年頃の「stereo」の文字が、妙に有り難そうに描かれているのは微笑ましい。

 

スリーヴのデザインの変遷も見ていて楽しい。タイポグラフィに詳しいわけではないが、60年代の盤など、しっかりデザインされた文字が使われており、時代を感じさせると同時に何ともオシャレにも思えるのである。70年代の途中からは、限られたフォントの文字が使われるようになり、ビジュアルなデザインとしてはシャープになっていく一方で、文字のデザインはつまらなくなっていく一方なのである。印刷などの事情も関係するのかもしれないが、7インチのスリーヴのデザインが面白いのは70年代前半までという気がする。

 

自分の場合、LPに関しては、60年代の映画のサントラ盤のイラスト・ジャケットが好きで、店でもジャケット・フレームに入れて何枚か飾ってあるのだが、これに関してはもうアートの域に達している。さすがにこの点だけはLPに分があるだろう。ジャケット・アートを楽しむという点で、あの大きさは魅力である。60年代のものは、白地にイラストが描かれたものが多いので、汚れが目立ち易いということにもなる。状態のいいものは少ない。このあたりからも、オリジナル盤に対する拘りが薄い性格が確立されたのかもしれない。ジャケットは綺麗なほうがいいに決まっている。ただセカンド・プレス以降、ヘンな謳い文句が刷り込まれたり、微妙にデザインが変えてあるものもあるので、注意が必要だ。

 

7インチ盤はコンパクトで妙にカワイイという点が好きなのだが、スリーヴはペラペラで薄いから皺になり易いし、傷みやすい。古い盤では、折れ皺が目立つものも多い。黄ばんでいたり、カビっぽいものもあったり、いいコンディションで残っているものが少ない。この点はLP以上に厳しい条件に晒されている。だからこそ、7インチ盤はスリーヴの状態のいいものに拘って集めていたのである。自分にとっては、スリーヴがないということが、物足りないでは済まされない事情がこの辺にあるのである。

 



         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.