0047 音楽好きの到達点(2016.02.21.

清澄白河のカフェ、ジンジャー・ドット・トーキョー内にあるショップ・イン・ショップ形式のレコード屋45rpm.tokyoは7インチ盤専門店である。単にカフェの集客目的で「レコードも売るか」と諦め半分に近い気分でスタートしたが、やるからには一定のクオリティを維持していきたいと思うし、せっかくお越しいただいたお客様に申し訳ないので、それなりに楽しんでいただきたい。値段を下げて喜んでもらうという選択肢も無いわけではなかろうが、しばらくはやる気はない。正直言って、高めの値札が付いている。レコ漁りを40年来の趣味としている自分自身の感情に置き換えて、自分の大事にしているものが法外に安く売られていることは決して嬉しくないと思ったからだ。ある程度価値があると思うから集めるのであって、ビー玉を集めるのとはわけが違う。個人的に諸々の思い入れがあって、様々な思い出とリンクし、好きな曲というだけにとどまらず、人生を彩ってきた曲などというものもあるのだ。大切に思っているものに、妙に安い値段がついていたりすると哀しいものである。

 

また経営者的に言わせていただくと、ロクに仕入れるルートがないものを、かなり足を使って買い集めてくるのである。卸問屋があるわけではない。中古市場としてさほど規模が大きいものではないので、取り扱っている店舗数も多くはなく、動き回って数少ない品数から状態のいいものを買い集めてくるのである。専門店というからには、状態がいいものが多いという点には拘りがある。ここに拘らないでどうする。どこぞの倉庫まがいの骨董屋で拾ってきたような、ボロボロのスリーヴ無し盤がぎゅうぎゅうに詰め込まれて並んでいる某店のような、見る前からやる気を殺がれるような光景にはしたくない。カフェでビールやコーヒーを飲みながら、のんびりとレコ漁りを楽しんで欲しいからこのスタイルにしているのだ。

 

結局のところ、サブカル関連のブツや情報を集めているコレクターや、いわゆるオタクと呼ばれる方々は、アイテム以外には極力おカネを使いたくないのである。自分も昔は食費を節約してでも、レコードを買い集めたクチである。しかし、ウチはもう少し高尚なものとして、大人の趣味として、楽しんでいただきたいのだ。例えば彼女を同伴してレコ掘りにきても、待たせることが気にならない程度に快適な空間に身を置き、そこにいる時間を楽しむという消費スタイルを提供したいのである。

 

専門性を高めて「オタク相手の商売」という方向性に振り切るのも面白いだろう。しかしそのやり方は、売る側にもオタク集団相手に、知識量で太刀打ちできる自信が無ければなかなか成立しない。70年代80年代のポップス、ロックに関しては、それなりの知識はあると思うが、自分自身をオタクだとは思っていない程度の深さなので、自信があるとは言い難い。むしろ、この下町音楽夜話で何度も書いていることだが、自分の場合は「浅く、広く」というところが特色だろう。そういう意味では、ジャンルに拘らないレコ屋経営には向いているヤツかもしれない。

 

また今現在は、買い取りはやっていない。自分のコレクションをまとめて売りに出しているようなものである。時々仕入れにも行くので小出しにすることはできるが、ストックは多くはない。もちろんレコ屋として始める準備段階で、それなりにストックは増やしてある。常に置いておきたいタイトルは数枚バックアップがある。中古盤は一点ものであるから、この曲が好きだというだけでストックを揃えておくことは難しいが、そういうことを意識して仕入れているというわけだ。またカフェの中にあるショップ・イン・ショップなので、バックヤードが広くとれるわけではない。必然的に自宅がバックヤードとなってしまう。これまでも、アナログ、CD、DVDを合わせれば、ゆうに1万枚は超えるコレクションが置いてあった部屋だ。しかし、そこは同時に居住空間であり、年老いて動きは鈍いが、レコードの天敵、巨猫も一緒に暮らしている。売り物のバックヤードとしては、100%ではない。カフェの中に置ける程度にしておく方が無難だろう。

 

来月からは、カフェの中で、音楽+トークのイベントを始めることになった。複数のお客様からの要望があり、いよいよ重い腰を持ちあげたというわけだ。下町音楽夜話を13年以上にわたって書き続けてきた身としては、ネタに困るということは有り得ない。せっかくやるからには面白いものにしたいという思いが強く、それなりに拘りを感じ取っていただける内容にはするつもりだ。初回は3月5日の午後、お題は「憧憬1973」、ジム・クロウチの「ルロイ・ブラウンは悪い奴」やロバータ・フラックの「やさしく歌って」など大好きな73年のヒット曲をかけながら、時代背景などの考察を語るつもりである。明らかにただのDJイベントとは異なる内容である。まずは、やる側が準備しながら楽しんでいる。

 

趣味は「音楽」と言ったところで、演奏する人もいれば、歌う人もいる。流行りものを聴くだけの人もいれば、特定のミュージシャンを徹底的に支持する人もいる。自分の場合、ジャケット・アートも含めて、アナログ・レコードが好きというところを起点に、音楽について書くという楽しみをここ10数年突き詰めてきた。こんどは音楽を聴かせる自分のカフェで、7インチ盤専門店をやりながら、音楽について語るイベントを始めるというわけだ。音楽好きもここまでくれば、少しは達成感もあるというものだ。

 

 



         
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