0049 大人が楽しめる音楽イベント(2016.0.0.

清澄白河のカフェ・ジンジャー・ドット・トーキョーは、店内に7インチ盤専門店45rpm.tokyoがある音楽好きが集まる店である、…とオーナーは勝手に思っている。レコードがいっぱいある店だから当然そういう目で見られるとは思うが、不思議なほど音楽好きが集まってくる。正直言って、物知り顔で音楽の話をするのが怖くなる。自分自身は45年以上にわたり洋楽を聴き続けてきたこともあって、人一倍詳しいことは確かだろうが、音楽業界に身を置いたことはない。業界の方から見れば素人だろう。それでもこれだけ浅く広く聴いている人間は珍しいだろうという思いはあるし、資料にあたらないと気が済まない性質や、体系的に資料を整理する癖のおかげで、昔の記憶が割としっかりしていることは、自慢できる部分かもしれない。

 

ジンジャー・ドット・トーキョーで開催された、音楽+トークのイベントの第1回「憧憬1973」に参加された顔ぶれは、相当のレベルだった。マニアック過ぎると普通に音楽が好きという方々が参加し難くなる、とかいった心配は無用だったようだ。こちらが思っている以上に深い会話が客席で交わされており、それぞれに聴いていた環境の違いを前提として会話が成り立つわけで、そこはさすがに大人向けのイベントとなったなと安心もした。元々、DJイベント等は数多くあっても、「大人が参加できるイベントが無い」という声が発端でもあるのだ。

 

文化度を高める意味合いから、社会事象に関する年表をお配りし、時代背景を解説に含めるようにしたのも正解だったようだ。ローカル色を打ち出したいという自分の勝手な思い入れもあり、古写真を映写して時代感覚を呼び戻す工夫を加えたが、こちらは一部の方のみ大受けだったようだ。プロジェクターをもっと活用する準備もしてあったのだが、時間が足りなくなったことと、PCの調子が悪くなってしまったという、どうしようもない理由から、割とシンプルなものにならざるを得なかったことは少々残念だった。自分の中では、極力7インチ・シングルでかけるという努力もしていたのだが、そこは当然限界もあるわけで、拘り過ぎずにLPも活用した。表だって謳ってはいないが、アナログを聴かせるカフェでやるイベントであるからには、アナログ・サウンドで行きたいではないか。

 

実は何をかけるかは、部分的にしか決めないで臨むことにしていた。その場の成行きに任せ、変えられた方が面白いと判断したからだ。それでも、ロバータ・フラックの「やさしく歌って」か、大瀧詠一の「サイダー‘73」のどちらかでスタートし、フランソワーズ・アルディの「さよならを教えて」で終わろうということだけは決めていた。またできるだけいろいろなジャンルの曲から選ぶようにして、映画のサントラからも数曲かけたいなと考えていた。

 

結局のところ、一曲目から予定変更である。直前にクイーンのリクエストに応えていたこともあり、スタートは1973年デビュー組の代表クイーンの「キープ・ユアセルフ・アライブ」となってしまった。続けて「やさしく歌って」、ポール・マッカートニー&ウィングスの「マイ・ラヴ」、ローリング・ストーンズの「悲しみのアンジー」というバラードの大名曲3連発で引き込むことにした。ストーンズから続けるには、カーリー・サイモンの「うつろな愛」にミック・ジャガーが参加していることから、これしかないという流れが作れる。ここらで時代感覚的に73年に焦点があってくるだろうということで、プロジェクターを使い、古写真の映写をしてみた。まだ都電が走っている街並みの空が広いことが妙に印象的だ。続けて音楽に戻るタイミングで「サイダー‘73」を持ってきて、いきなりヴァリエーションを広げ、ローカルな話題ということで、ガロの「学生街の喫茶店」とつなげた。前半の流れはスタート以外、概ね想定通りとなった。

 

中盤は、悲劇のヒーロー、ジム・クロウチの代表曲2曲からブラック・ミュージックにつなげるため、まずは白人でも黒い音を出していたという例でストーリーズの「ブラザー・ルイ」を紹介し、その後ファンク・バンドの雄、ウォーの「世界はゲットーだ!」、そしてスティーヴィー・ワンダーの名曲「迷信」とつなげたのである。迷信とくれば素晴らしいカヴァーを披露したジェフ・ベック、73年の名ライヴ盤からBBAの「レイディ」の猛烈な演奏を聴き込んだ。続けて70年代を代表する名曲エルトン・ジョンの「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」、さらに「土曜の夜は僕の生きがい」をかけた。ここらで時間が足りなくなってきたため、大ヒットしていたグラムロックを紹介する代わりに、「エルトンもグラムと言われていた」ということにさせてもらった。デヴィッド・ボウイよ許しておくれ。

 

映画音楽代表はマーヴィン・ハムリッシュがシーンを席巻していた年だけに「スティング」から「ジ・エンターテイナー」をかけ、もう一つということで、ポセイドン・アドベンチャーからモウリーン・マクガバンの「モーニング・アフター」と続けた。ここらは外せないといったところだ。

 

そして〆は、下町音楽夜話第91曲でも紹介したフランソワーズ・アルディの「さよならを教えて」だが、加えてもう一曲、キャット・スティーヴンスの「人生はさすらい」も紹介させてもらった。イスラム教に宗旨替えし、ユスフ・イズラムとしてイスラム世界から世界平和を訴えている男である。自らの意思でシーンから消えていったこの男のことが自分は忘れられない。「彼の音楽を放送禁止にしている、料簡の狭い某国の対応が悲しくてならない」ということを紹介して終了とした。別に政治や宗教の話がしたいわけではない。単に、「大人が楽しめる音楽イベント」を作ったつもりなのである。 

 



         
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