0053 エリック・クラプトンのエクスプローラー(2016.04.03.

自分はギブソン派である。フェンダーが好きではないということではなく、ギブソンの方が好きという程度だが、音も姿形もギブソンの方が圧倒的に好きなのである。もちろん最も好きなのはレス・ポールである。フレーム・グレインが浮き出たレス・ポールは何時間眺めていても飽きることがない。流麗な曲線の全てが見事なまでのバランスを保っていると思わせるデザインは、あくまでも美しい。

 

1991年の冬にニュー・ヨークで買い求めたギブソン・レス・ポールのスタジオ・ライトというモデルは、スタンダードよりも若干薄く、軽く作られている廉価版のようなギターだった。それでも見事なフレーム・グレインが浮き出ており、眺めていて楽しくなる。サンバーストはかかっておらず、全体に黄色がかった色合いは、レッド・サンバーストと甲乙つけ難い美しさである。ただしこのギター、ハードロックやヘヴィ・メタルには非常に合いそうな音質で、少々意外だった。結局今も保有しているが、バスケットボールで両掌を複雑骨折した自分にとっては宝の持ち腐れである。それでもギブソンは一本手元に持っていたいと、今でも思っている。

 

初めてギブソンに興味を持ったのは、随分昔だし、レス・ポールでもない。直線的なデザインのエクスプローラーというギターである。しかも部分的に切り取られた特殊なデザインの一本である。ここまで書けば分かる人には分かってしまうだろう。エリック・クラプトンが初来日のときに弾いていたギターである。大胆なデザインのエクスプローラーの尖がったボディのお尻の方の一部が切り取られているのだが、美的感覚のある人間の仕業か、非常にバランスがよく、上手くまとまっているのである。何故そのようなことをしたのか、重たかったからか、ストラップで肩にかけたときにバランスが悪かったからか、いろいろ想像してみるだけでも面白い。その後ギブソンが「エクスプローラー・ECカット」というネーミングで、同様のデザインの製品を売り出していたほどなので、そのデザインのよさはご理解いただけるだろう。

 

そんなわけで、わけも分からないまま一本の変なカタチのギブソンに魅せられてしまってからは、随分ギターの勉強をしたものだ。といっても音楽雑誌に載っているギター関連の記事を隈なく読んだという程度だが、当時エリック・クラプトンの変形ギターはかなり話題になっていたと思う。そもそも洋楽に夢中になっていた小僧にとって、楽器の種類もよく分かっていない程度だったが、御茶ノ水の楽器店でもらってきたカタログは重要な情報源だった。国産メーカーのものはぺらぺらで、自由に持っていけるようにラックに並べてあったが、そこからですらピックアップの種類や特性など多くの知識が得られた。ギブソンのカタログは見たことがなかった。店員がくれたフェンダーの冊子になったカタログは、もう宝物のように扱っていた記憶がある。

 

自分は箱もののギターが好きではなかった。ギブソンの得意分野だが、子どもにうったえるのは、ロック・ミュージシャンが使っている派手なソリッド・ボディだった。それがジャズやブルースまで聴くようになった頃には、箱ものが無視できない存在となった。ギブソンのコッテコテの大振りなギターはげんなりしたが、芸術品のような美しさは認める感覚も出てきてはいた。一方でブルース・ミュージシャンが使っていたような、カッタウェイのないFホールのアコースティック・ギターにハマった時期はあった。ギターの技術などまるで大したものではなかったが、楽器に詳しくなるに連れ、音楽の楽しみ方は広がったと自覚している。だんだんテクニックを聴くようなものも聴き始めたが、例えばジェフ・ベックのよさに開眼するのは、ジミー・ペイジやエリック・クラプトンよりも数年遅れることとなった。その後は、そこそこ演奏も楽しめる程度になったことはなったが、テクニカルなミュージシャンの凄さが理解できるようになった分、演奏テクだけではない音楽の懐の深さも思い知らされた。

 

1974年の音楽とトークのイベントを週末に開催するため、いろいろ調べていたとき、エリック・クラプトンの初来日の年であることに思い当った。いまだに現役でいるギターの神様も、ドラッグ禍から逃れ、アルコール漬けになりながらも現世に戻ってきた時期だ。思い出される音は「アイ・ショット・ザ・シェリフ」の出だしとレゲエのリズムだが、絵的に思い出すのは、尻尾の切り取られたエクスプローラーをぶら下げた髭面のエリック・クラプトンなのである。なかなか刺激の強い70年代に多感な十代を過ごした自分と近い年齢の方はご理解いただけるだろうが、本当に面白い時代だったのだ。手段は限られていたが、皆貪欲にサブカル情報を集めていた。今のようにどんな情報も簡単に手に入る時代ではなかった。新盤のリリースですら2カ月といったタイムラグがあったのだ。一枚の変なカタチのギターの写真が、どれほど興味深い情報を内包していたか、知る由もあるまい。

 



         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.