0056 カフェのBGMかくあるべし(2016.04.24.

プリンスが他界した。享年57歳、まだ若いではないか。死因は調査中ということだが、病気であれ何であれ、また一人、一世を風靡したミュージシャンが亡くなったということだ。今年は本当に寂しい年になってしまった。年初のデヴィッド・ボウイに始まり、たった3ヶ月でグレン・フライ、モーリス・ホワイト、ポール・カントナー、キース・エマーソンといったミュージシャンの訃報に接してきたわけだ。音楽を聴かせるカフェをやっているからには、どうしてもミュージシャンの訃報に接すると「R.I.P.」の札を掲げ、その日は聴きまくるということになる。最近では、そういうことを知っているお客様が増え、「やっぱり…」などと言いながらお店に入ってこられることが多くなってきた。デヴィッド・ボウイの時は一週間ほどかけまくっていたので、さすがに話題に上る回数も多かったが、その他のミュージシャンの場合も、数人は故人について話がしたくて来てくださる方がいることが嬉しくもあった。

 

自分の場合、プリンスは特別思い入れのあるミュージシャンではない。年齢的に我々の世代でプリンスが好きと言う人間は多くなかろう。同世代の友人との会話に上ることもまずない。それでも少し下の世代には、熱烈なプリンス・ファンがいることもよく理解している。「他のミュージシャンはあまり聴かないがプリンスだけは大好き」という知人が何人もいるからだ。いろいろなスタイルの曲を作っていたからか、プリンスだけで音楽趣味が完結している方と接するにつけ、不思議な気分になったものだ。彼に関しては、ワーナーとの契約関連や宗教関連で諸々の噂話に近い記事がウェブ上でも読めるが、いずれにしても、自分とは縁遠い人間という印象しか持てなかった。やはり世代の違いなのだろう。

 

普段ランチタイムはHDDプレイヤーなどで流しっぱなしにしているが、落ち着いたらアナログ・レコードに切り替える。夜は概ねアナログだ。そんな中で、音楽好きのお客様と会話しながら、リクエストの盤を聴いたり、オススメの盤をかけてみたりというのがカフェGINGER.TOKYOのスタイルである。普通のカフェよりはBGMのボリュームが大きいことは間違いない。レコードを売ってもいるし、大きなレコード・ラックがあるので、レコードを見ている方は音楽好きであることが直ぐに知れるが、全く興味を示さない方もいらっしゃる。それでも帰り際に「さっきのは誰ですか?」などと訊かれることもあるので、結局のところ、ほとんどのお客様が音楽好きだと思うようにしている。本来目指していたスタイルとは違ってしまったのだが、結果的にそういうお店になってしまったようだ。

 

インターネットのおかげで、世の中は随分便利になった。音楽を取り巻く環境も大きく変化してしまったことは事実だ。昔は一定の代金を支払わないと、いい音で音楽を聴くことはできなかった。自宅にオーディオ・セットを揃えることができない音楽好きは、ジャズ喫茶に通ってでも、新しい音楽に関する情報を仕入れていた。オーディオ・セットは数万円から数百万円といったものまであって、ステータス・シンボルのように扱う御仁もいらした。今は仰々しいオーディオ・セットを置いている家の方が珍しいのかもしれない。また、PCに接続するアクティヴ・スピーカーは防磁機能のある小さくて高音質なものが増えてきた。しかも1~2万円も出せば相当いい音が聴けてしまう。もちろん好き嫌いはあるが、それだけあれば、ほとんどの音楽が比較的高音質で聴けてしまうのだから、とんでもない時代になってしまった。ミュージシャンがいつまで職業として成り立つのか心配でならない。ビジネス・モデルの変革は喫緊の課題というわけだ。

 

アナログ・レコードの音を聴かせるカフェは、いくらでもあるだろうと思っていたが、昔ながらの有名ジャズ喫茶もどんどん消えて行き、手軽にアナログ・サウンドを聴きたいと思っても難しい世の中なのだそうだ。その一方で廉価なアナログ用オーディオ機器が次から次へと発売されるのは喜ばしいことだろう。ことアナログ・サウンドに関しては、いまだに確たるビジネス・モデルが確立していない領域でもあって、個人では難しいレベルの音を聴かせられれば、それなりにビジネスとして成り立つとは思う。しかし、お客様からリクエストを受けながら聴かせられるほど、アナログ盤を揃えることは案外難しいかもしれない。千枚もあればそこそこは行けるが、それだって、ヒット曲を持つミュージシャンのベスト盤を一枚ずつ集めれば、直ぐに超えてしまう枚数である。それなりの金額にもなるし、場所もとる。ビジネスとして投下資本を回収しようと考えると、案外キツイかもしれない。

 

自分の場合は、40年以上続けてきたアナログ・レコードの趣味を生かして、人生もセカンド・ステージ的に楽しんでいるだけであって、投下した資本を回収しようとは毛頭考えていないので成り立つが、浅く広くポピュラーなものを中心に聴いてきたという音楽的趣味が、意外にこのスタイルに向いていたということなのだろう。要は誰かしらミュージシャンの訃報が飛び込んできたとき、必ず関連するレコードが何枚かあるのだ。いかに幅広くお客様のリクエストに応えられるようにするかと思案をめぐらし、工夫した結果でもあるので、当然なのかもしれない。まさに、カフェのBGMかくあるべし、なのである。

 



         
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