0060 新盤チェックが疎かになっていけない(2016.05.22.

1970年代の曲をかけるイヴェントを続けているため、古い曲を聴く機会が増えていることもあり、新盤チェックが疎かになってしまった実感はあった。最近はアナログ・レコードしか買わないため、以前ほど購入する枚数も多くはない。その一方でアナログ・レコードを聴かせる店をやっているわけで、好きなミュージシャンのアナログ盤がリリースされれば、確実に入手したいとは思う。全てのタイトルでアナログ盤がプレスされるわけではないのだろうから、拘りすぎると面倒なことになるが、自分が好きなミュージシャンは大抵アナログ盤でもリリースしてくれる。シェリル・クロウをはじめとした数人はアナログ・サウンドに興味がないようだが、アナログ好きが好きなミュージシャンは概ねアナログが好きなのだろう。

 

今月はどういうわけか集中して新盤が届くことになった。何はともあれ、もっとも嬉しかったのが、ザ・ウォールフラワーズの大ヒットしたセカンド・アルバム「ブリンギング・ダウン・ザ・ホース」だ。リリース20周年にしてようやくアナログ盤でリリースされたのである。長年自分の中で「最もアナログで聴きたくて聴けないアルバム」の代表だった1枚だ。昔の音源ならまだしも、90年代にこれだけアナログと親和性の高い音を出していたのは、彼等かウィルコくらいのものだろうということで、思い入れタップリだったのである。しかし、喜び勇んで針を下ろした直後、大好きな「ワン・ヘッドライト」のファースト・インプレッションは、「あれ?」というものだった。妙にレベルが低い。他の盤と比べて音が小さいのである。音質もイマイチな感が否めない。もう少し聴き込んで、合う鳴らし方も探ってみようと思う。

 

同日に届いたのは、西海岸の新星アンダーソン・パークのセカンド・アルバム「マリブ」である。こちらはロバート・グラスパーがプロデュースで参加した曲があるというだけで購入に踏み切った一枚であるが、満足度は相当高い。ドクター・ドレーの「コンプトン」に大フィーチャーされているなどといった話題豊富な期待の新人シンガーである。ヒップホップ系の鳴りに近いが、低音が強すぎてウンザリということもない。メロディアスな部分も多く、しばらくは楽しめそうだ。ファースト・アルバム「ヴェニス」も気に入ってはいたが、セカンド・アルバムは数段レベル・アップしているようだ。しばらくジンジャー・ドット・トーキョーではヘヴィー・ローテーションでかかっていることだろう。

 

件のロバート・グラスパーは、新盤「エブリシングズ・ビューティフル」の発売が待たれるが、現代のミュージック・シーンにおいて、彼の周辺のものはしばらく目が離せない。4月のレコード・ストア・デイ2016関連商品として発売された12インチ盤「ゲットー・ウォーキン」は少々コケたが、時空をこえたマイルス・デイヴィスとの共演というスタイルの新盤は、それでも待ち遠しいことに変わりない。今年一番の期待作である。ヒップホップはあまり好きではないが、今現在のブルーノートから発信される音楽は、あまりにハイ・クオリティで、ジャンルなどはどうでもよくなってくる。若者に媚びを売るつもりは毛頭ないが、私のようなジジイが聴いても、十分に楽しめるものになっている。リズムがいかにも現代的なものも多いしラップも多いが、ピアノのサウンドだけでも、アナログ・レコードを買って聴く価値は十分にある。

 

また昨日同時リリースになったのが、エリック・クラプトンの「アイ・スティル・ドゥ」とボブ・ディランの「フォールン・エンジェルズ」である。ジイサンたちがまだ作れるのかという声もあるが、意外に上手く枯れてきたというべきか、これはこれで悪くはない。カフェでまったりしながら聴くには悪くないチョイスだ。いまさらハードなロック・アルバムを期待しているわけではない。それぞれが加齢という避けられない事実と直面し、仲間に支えられながらも、渋いアルバムをリリースしてくれるのは、長年聴き続けてきた身として嬉しい限りである。また奇しくも両御大とも来日公演を敢行したばかりというのも面白い。「これが最後のツアー」という宣伝文句はもう聞き飽きた。体調がよければまた来ることもあるだろう。さすがにライヴはもういいかなという気分になってしまった。

 

エリック・クラプトンはオリジナルが2曲収録されているが、ボブ・ディランは全曲がスタンダード・ナンバーのカヴァー集である。ディランは前作もそうだったので、さすがに創作意欲が枯渇したかと思われるが、いずれにせよ、新盤をリリースしてくれるだけでも有り難いというものだ。どちらも渋い内容で目新しさは微塵もない。しばらくの間、日に一回くらいは針を落とすかもしれないが、問題は1年後2年後にまた聴きたくなるかどうかだ。案外落ち着いた気分のときには、うってつけのアルバムかもしれない。年齢を重ねれば、音楽の作り方も変わって当然だろうし、こちらも聴き方が変わっても仕方ない。追悼盤的なものが多い昨今、現役として新盤をリリースしてくれることは、やはり喜ばしいこととして受け入れたいものである。

 




         
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