0061 いい音で鳴らすぞ(2016.05.29.

エリック・クラプトンが先般リリースした「アイ・スティル・ドゥ」のアナログ盤は、180gの重量盤かつ45回転の2枚組である。オーディオ好きにとってはこの上ない仕様でリリースしてくれたわけだが、カフェでBGM的に流すことを考えると、有り難いとばかり言ってはいられない。3曲聴いたらひっくり返さなければならないこの手の盤は、余裕のある時にしか聴けないという恨みもある。少し前だと、エド・シーランの「X」もそうだったが、あれなどもう何度となく回転数を間違えてかけて、お客様に笑われたことか。オーディオ趣味とはあまり縁のないミュージシャンのように思うが、何故45回転なのか理解不能という気もする。結構気に入って、いまだに繰り返しかけているのだから、文句を言う筋合いではないが、果たしてオーディオ趣味に向いた音楽というものがあるのだろうか。

 

1970年代の曲を聴く機会が非常に多い自分にとって、英国盤はいい音で鳴って当たり前、英国のミュージシャンの国内盤もある程度はいい音で鳴ると思っている。キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」など一部のものは、皆が英国初回盤や高音質盤を手に入れようと頑張ることが実によく理解できる鳴りだったりする。低音が驚くほど薄い。ビートルズ関連は驚くべきレベルの高音質で録音されているが、これに慣らされた耳には寂しい限りである。以前イベントで国内盤のパイロット「マジック」をかけたとき、驚くほどメリハリのきいたいい音で鳴ることに驚いたが、あれもアラン・パーソンズ絡みの音源だけに、高音質で鳴って当然ということか。国内盤も侮れない。

 

米国のミュージシャンは玉石混淆、わりと有名どころでもロクな音で鳴らないものも多い。スティーヴィー・ワンダーなど結構いい音で鳴る方だが、曲によっては驚くほどチープな鳴りのものもある。あの違いはいったい何だろうと疑問に思っているが、おそらく録音環境が違うのだろう。モータウンあたりのレコードはクレジットが十分ではないので、はっきりしたことは言えないが、モノによるとしか言えない。アルバムでいけば、「トーキング・ブック」は鳴らすのが難しい。まず満足できる音では鳴らない。わずか2年後の1974年にリリースされた「ファースト・フィナーレ」は、国内盤であれ、放っておいても妙に生々しい音で鳴る。嬉しい限りである。

 

その後は、例えばスティーリー・ダンやトトなど、オーディオ趣味の方がよく素材に取り上げているミュージシャンのものなど、無難に鳴る。スタジオでいじくり回した音源はさほどいい音では鳴らないだろうという気がしてしまうが、かと言って、ライヴや一発録音が必ずしもいい音で鳴るとは限らないところが面白い。トトはファーストの妙に籠った音質は決して好みではないが、セカンド・アルバム「ハイドラ」は猛烈にクリアで素晴らしい音を聴かせる。ウェスコーストの音源は概ねいい音で鳴るが、あれは湿度が関係しているのだろうか。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」など、米国盤ファースト・プレスと国内盤のアルバムやシングル盤で鳴り方があまりに違うのに驚いた。ただ人間の耳はノイズすら取り除いて脳に伝える便利な器官だけに、自分はあまり拘らないようにしている。上手く鳴ってくれないスティーヴィー・ワンダーの「サンシャン」にヘコむ程度である。

 

今年の3月から5月にかけて、1973年から1975年の年別イベントを開催してきたが、来月の1976年で終了するつもりでいた。しかしご参加くださった皆さんも楽しんでいただけているようなので、このまましばらく続けていくことになりそうだ。自分は1960年生まれなので、リアルタイムで経験していない60年代を素材にすることに関してはかなり消極的なのだが、70年代に関してはいくらでも語れる自信がある。当然80年代も語れるが、80年代はミュージック・クリップを観ながらでないと面白くないような気もする。悩ましいところだ。70年代前半はブリティッシュ・ハードロックやプログレッシヴ・ロックの名盤群に加えてシンガー・ソングライターが多くの名曲を産み落とした時期でもある。これまでは普通にヒット曲をかけているだけでもイベントの様相を呈してくれたが、これからはそうも言ってはいられない。

 

それでも、70年代後半はディスコ、パンク~ニュー・ウェイヴ、フュージョンなどのブームもあるので、音楽の多様化が何といっても面白い。さらに後に産業ロックと揶揄された普通のロックに関しては、多くの名盤が生み出された時期でもある。ジャーニー、ボストン、スティックス、カンサス、フリートウッド・マックなどといったグループは選曲に迷うことだろう。ウェスト・コーストも忘れてはいけない。一方で英国からは、ポリスやプリテンダーズなど、ニュー・ウェーヴのブームに乗じて強者たちが続々登場してきた時期でもある。単純にニュー・ウェーヴの語法で語られるのは、カネをかけていない一発録りの荒削りな録音故か。その分生々しい音で鳴る嬉しい盤が多い。いやはや、70年代後半も楽しいことになりそうだ。半分は自分が楽しむためにやっているイベントでもある。オーディオ・イベント的にも、もっと密度の濃いものにしていくか。

 


   

         
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