0065 オー・アトランタ(2016.06.26.

清澄白河でカフェをやっているというと、大抵コーヒー屋と勘違いされるので面倒くさくていけない。「ウチはランチ屋だ」と言ったところで、全く理解されない。むしろ「夜はアナログ・レコードを聴きながらゆっくり酒が飲めますよ」という方が伝わり易いようだ。メニューは夜の方が多いが、昼と夜とでは違った性格の店だと言い切れるほどでもない。いい音を聴かせるという点では全く変わりない。昼は忙しくて、しょっちゅうレコードをひっくり返すのは難儀だろうが、スタッフが協力的で、アナログをウリにすることができている。夜は調理中でもレコードを替えることを最優先にしているが、実際に流れている音楽は違うかもしれない。昼の若いスタッフはヒップホップやR&Bなども範疇に入ってくるので、夜よりは幅広い音楽がかかっていることだろう。自分が出てきてからは、古いロックかジャズになってしまう。これは致し方ない。

 

最近は火曜日の夜をBGMしばりのイベントとして宣伝している。結局お客様の要望が優先してしまうこともあるが、複数のお客様が聴きにきてくれていれば、イベント成立である。命日にぶつかっているミュージシャンがいれば特集することになるが、ジェフ・ベックだけをかけていた日もある。毎月第2土曜日に開催しているトーク・イベントの第2回を、少し内容を入れ替えながらやっている週もあるので、さほどカッチリしたものではない。有名ミュージシャンの命日であれば、その人を特集するのは火曜日に限ったことではない。例えば昨日の土曜日は、マイケル・ジャクソンの命日だったので、出勤していたスタッフの協力のもと、終日かけてもらった。音楽好きのカフェ・オーナーがやりたいことと言えば、まずはそこだろう。

 

さて、6月29日はローウェル・ジョージの命日である。28日と29日の夜は、リトル・フィートをかけまくるつもりで、SNSなどでも告知している。実はリトル・フィートを好むお客様は少ないだろうという考えから、店には一枚も持ち込んでいなかったのである。今回持ち込んで思い切り試聴してみるつもりで、自分自身も楽しみにしているのである。ローウェル・ジョージはフランク・ザッパのマザーズ・オブ・インヴェンションを脱退後、1969年にリトル・フィートを立ち上げ、70年代には立て続けに名盤をリリースしている。ニュー・オリンズ系のR&Bやブルースなどをロックに取り込み、ルーツロック的な音を聴かせるバンドではあるが、歌詞はかなりヘンだし、メロディも捻りがきいたものが多い。よくも悪くも、変態バンドという言葉が似合っている。

 

初期の代表曲「ウィリン」はドラッグのことを歌った曲で、これが原因でザッパに解雇されたとも言われるが、この曲はローウェル・ジョージが指を怪我していたときに録音しており、たまたま居合わせたライ・クーダーがスライド・ギターを弾いているという噂話もある。わりと似たタイプのスライド・ギターを弾くので、どちらが弾いていたか音では判別できないが、いずれにせよ好きなミュージシャンではあるので問題はない。ローウェル・ジョージはソケット・レンチをスライド・バーに使っていたので、スライド音が太い。桑田佳祐は彼の奏法の影響を受けているというが、音が違う。

 

7インチ盤専門店の経営者として言わせていただくと、リトル・フィートのシングルはまずお目にかかることがない。海外のスリーヴがない盤も含め、7インチ盤はまず見たことがない。それでも、ないわけではない。今回命日にちなんだBGMイベントにタイミングを合わせ、秘蔵だったシングル盤を一枚、新着盤として放出する。ものは大名盤ライヴ「ウェイティング・フォー・コロンバス」からのシングル・カット「オー・アトランタ」である。スリーヴはアルバムと同じ、ハンモックに横たわるトマトである。スリーヴには「来日記念シングル」と「本邦初シングル」の文字が見られる。そう、70年代の各名盤に収録された有名曲、例えば「ウィリン」「セイリン・シューズ」「ファットマン・イン・ザ・バスタブ」「ディキシー・チキン」などは、シングル・カットされてはいないのである。再結成された後の1988年以降はシングル曲もあるが、ローウェル・ジョージ存命中は、一切シングル・リリースはしていないのだ。ちなみに「オー・アトランタ」も、来日記念の日本独自シングル・カットということなのである。

 

ローウェル・ジョージは70年代後半になると、ドラッグ禍も目立ち始め、バンド内でのリーダーとしての立ち位置も怪しくなり、リトル・フィートを解散してしまう。1979年には最初で最後のソロ・アルバム「特別料理 Thanks I’ll Eat It Here」をリリースしたが、その直後のツアー中にオーバー・ドーズによる心不全で亡くなっている。享年34歳、少々若すぎる。自分にとっては、好きになったらいきなり死なれてしまったミュージシャンであり、ちょっと忘れられない存在なのである。オーディオ的には、これまで満足な音で鳴った試しがない。今回、絶好調とも言える店のシステムで鳴らすことが、心底楽しみなのである。何とかいい音で鳴らしてみたいものだ。

 



         
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