0068 ラウド・ヘイラー ― 変化とは(2016.07.18.

孤高の世界ナンバー1ギタリスト、ジェフ・ベックのニュー・アルバム「ラウド・ヘイラー」が発売になった。6年振りの新作、実にいい。ラウドなギターが随所で聴かれることだけでも嬉しくなってしまうが、ヴォーカリストのロージー・ボーンズとギタリストのカーメン・ヴァンデンバーグという2人の女性アーティストをフィーチャーしたバンド・サウンドが、実に統一感があっていいのである。個人的には、今年最高の1枚当確かといったところだ。

 

まいど新しいメンツで提示してくる彼のサウンドは、時代とともにドンドン変化して行くことだけでも評価するが、ギターを聴く限りジェフ・ベックのアイデンティティは間違いなく存在する。オーヴァー・エフェクト気味なサウンドに飽き飽きしている耳にとって、この突き刺さってくるギター・サウンドは嬉しい。女性ヴォーカルも、一時期フィーチャーしていたイモージェン・ヒープのようなエキセントリックな声質ではなく、バンド・サウンドとしてのまとまりに貢献している声である。ファンクやエレクトロニック・ミュージックやブルースが混然一体となったサウンドは他人が真似ても絶対に格好良く聴かせることができない個性的なものだ。これはもう、絶頂期のジミ・ヘンンドリックスのレベルと言っても過言ではなかろう。個人的にはそこまで評価する一枚である。

 

さて、自分は当然ながらアナログ・レコードで購入した。彼はこういったパッケージ・メディアをどう考えているのか分からないが、アナログで聴かせたいなどとは微塵も考えていないだろう。いかに先鋭的でピントがシャープなサウンドで届けられるかが絶対的な価値かもしれない。個人的には各楽器の分離がよすぎるような録音なので、むしろアナログでちょうどいいかもと思っているが、一方で思い切りドンシャリしたデジタル・サウンドで鳴らすのも面白いかもしれないと感じている。デジタルであれ、アナログであれ、しっかり低音が出るシステムで鳴らすべきだろう。

 

面白いのは、全ての音源を聴いてきている自分が、相変わらずのベック・サウンドと感じているのに、本人が試聴会で「今進路を変えなければ…」的なことを語っており、自己のサウンドが変化したと考えていることだ。思うにリズムは随分変わってきた。エレクトロニック・ミュージック寄りになった21世紀以降の音源は特に昔のファンにとって踏み絵的な作品だったが、ジャンルにこだわらない自分のような人間にとっては、非常に楽しめるものだった。むしろライヴでちょくちょく「オーヴァー・ザ・レインボー」等の古い曲をやり始め、ジェフ・ベックですら年を取ったということかと思わせたことが意外だった。一方で多くのファンは、心中、スタンリー・クラークやヤン・ハマーとはもうやらないのかな等と考えているのではなかろうか。確かに昔のメンツで昔風の曲をやってくれるのは凄くいいものができそうな気もするが、彼がやるわけはなかろう。

 

むしろ面白かったのは、21世紀の曲、例えば2003年のB.B.キング・ブルース・クラブでのライヴ音源で聴かれる「マイ・シング」などのように、テリー・ボジオとトニ・ハイマスとのギター・ショップ・トリオに女性ヴォーカルを加えたメンツで、デジ・ロック的な演奏を聴かせることなど、いろいろ試していることだ。単にこのメンツで新録音のアルバムをリリースしてくるのではなく、もっと若い世代の比較的無名なミュージシャンを起用して新境地を開拓し続け、それをライヴでは腕っこきのミュージシャンで再現してみせるなどというチャレンジは、他の人間ではやりたくてもできないし、やっても面白くないだろう。とにかく変化し続けている人間があえて変わろうとして作ったという作品がどれだけ斬新か、少し時間が経ってからでないと正当な評価はできないだろう。

 

結局のところ、この人にとって「変化」とは何を意味するのだろうか?これまでも一作(二作?)ごとに変化し続け、一つの所に立ち止まっていたことなどないような彼が意味する変化とは次元の違う話なのだろうか。ベースにある音楽は相変わらずだし、音はむしろシンプルになってきている。プログレなどとはまったく違った方向性の話である。これまでも個性的である上に、十分ラウドに自己主張していると思われた彼の主張したいことには耳を傾けていきたい。

 

気になるのは、同月に自叙伝が刊行されていることだ。数量限定だの、序文をジョン・マクラフリンが書いているなど、話題にはこと欠かない一冊らしいが、これまであまりマスコミに多くを語らなかった人間がついに発信し始めたということか。ひょっとしてこれは自叙伝も読まないと正確に理解したことにはならないのかもしれない。とにかく、暫くは「ラウド・ヘイラー」をヘヴィー・ローテでかけまくることになるだろう。この夏はこれ一枚で十分に乗り切れそうだが、そのためにはそれなりの体力が要ることになりそうだ。

 



         
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