0069 ジェネシス・リアセスメント(2016.07.24.

ジェネシスのアナログ盤は実にいい音で鳴る。低音がしっかり出ることと、艶やかな鳴りの2点はいずれの盤でも保証されている。この点に関しては、やたら長時間をアナログ盤に突っ込んでいることも含め、高音質盤ではないペラペラなディスクでもよく鳴るので、オーディオの常識を覆している。やはり録音がよいと考えるしかない。1980年代頃は、3人になってしまったジェネシスもヒットしていたし、フィル・コリンズのソロも実によく売れていた。マイク・ラザフォード率いるマイク+ザ・メカニクスも、メロディアスな名盤を連発した。70年代に脱退してしまったピーター・ガブリエルも、「SO」という大ヒット・アルバムがあるのだから、ジェネシスというバンドがいかに凄いメンバーだったかとあらためて思い知らされる。ギタリストが最も地味だったということが、実は如実にバンドの性格を示していたのかもしれない。スティーヴ・ハケットに関しては、GTRは好きだったが、…そこまでだ。

 

自分の場合、トニー・バンクスのキーボードが好きだったので、ジェネシスとしてもう少しアルバムを出して欲しかったという気持ちが強い。トニー・バンクスのアルバムは、彼のバンド、バンクステートメント等の作品も含め、いずれも美しいメロディに惚れたが、音質はイマイチで不満がないわけではなかった。曲の構成は、難解さがやや希薄なジェネシスそのものでもあり、結局のところ、この人の音だったのかと思わせる曲がいくつもあることが面白い。むしろ、そこにフィル・コリンズのアタックの強いドラムスと張りのあるヴォーカルが加わることでジェネシス・サウンドになっていたことは理解できるが、やはり曲の印象はトニー・バンクスのソロに近い。1983年にリリースされた「The Fugutive」というセカンド・ソロ・アルバムを耳にしたとき、そのことを確信したものの、フィル・コリンズやピーター・ガブリエル等が、それぞれに素晴らしい作品で、メロディアスかつプログレッシヴな音を聴かせてくれたことで、印象は大きく変わってしまった。

 

先日、鹿児島から出張ついでにご来店いただけたお客様のリクエストで、ジェネシスの7作目「トリック・オブ・ザ・テイル」をそれなりのボリュームで聴いたとき、懐かしさとともに、実に複雑な感情がこみ上げてきていけなかった。あまりの鳴りのよさに、何故もっと聴いてこなかったかといった後悔にも似た感情もあれば、フィル・コリンズをフロントに立たせるという選択は正しかったのかといった疑念も湧き上がった。自分の好みから言わせてもらえれば、ピーター・ガブリエルの脱退は正解だったと思う。ジェネシスのままでは、ピーター・ガブリエルのソロ作品ほどの不気味さと美しさが同居した独特の世界は描出し得なかったと思うし、ジェネシスのメロディアスかつ壮大な展開のプログレッシヴ・ロックに、ピーター・ガブリエルの抒情性やら政治的なメッセージまで内包した熱い情念は必要なかった。ヴェリー・イングリッシュな鬱々としたメロディは、いずれにも共通する通低音のようなものだが、好みは分かれるだろう。

 

「トリック・オブ・ザ・テイル」は全編に得も言われぬ美しいメロディが潜んでいることに気づく。また、ジェネシス以外ではあり得ない重たいリズムに脳みそが痺れる思いを味わえる。これ以外にはあり得ないと思わせる構成の作品を聴く快感は格別だ。以前にヘッドフォンでボリュームを上げて聴いたことはあるはずなのだが、やはりスピーカーから音を出して、しかもそれなりのボリュームで聴くことが、いかに素晴らしい行為であるかを思い知らされたのである。

 

先日開催した音楽とトークのイベント「王道1977」の中でも触れたことだが、「ローリング・ストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」に、ジェネシスとフリートウッド・マックが入選していないのは、人間関係の悪さなどがマイナスの評価に繋がったのではないかと思われるのだ。いずれも大ヒット・アルバムを複数持ち、素晴らしい業績を残しているにも関わらず、アンケート・ベースのこういったランキングでは評価されないというのは、それ以外に理由がない気もするのだ。では、逆に考えると、アーティストには高潔な人格や人間性が求められるのかということだが、犯罪歴があるようなミュージシャンもランク・インしているわけで、いまだに禊が済んでいないというのであれば、少々気の毒な気もしてしまう。フィル・コリンズの離婚問題で、随分バッシングされていたことは、ゴシップ・ネタには全く興味がない自分の耳にも届いていたのだから、相当のマイナス評価だったのだろう。

 

自分にとって、ジェネシスは少々後追いのグループで、1980年代前半に慌てて全アルバムを買い集めたような接し方だった。どんどんポップになっていくジェネシスの「その後」を知っている耳で、初期の不気味なまでに美しいアルバムを聴いたもので、少々バイアスがかかってしまっていたのだろう。ソロ作品も含め、多くの音源を聴いてきてはいるが、どうもきちんと評価していなかったような気がしてしまった。あらためて70年代の作品を、アナログ盤でしっかり聴き直してみたくなったが、果たして2016年の今、そうすることの意味は何なのか、もう一度自問しながら何度かトライしてみたいと思う。

 



         
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