0070 仕上げのブルース(2016.08.01.

先日、清澄白河のカフェGINGER.TOKYOで「宇宙の広がりと生命」という、恐ろしく高尚なイベントが開催された。国立天文台も属する大学共同利用機関法人自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター特任専門員の日下部展彦氏が講師である。四次元デジタル宇宙ビューアー「mitaka」を用いて、視覚的に分かり易く難度の高い内容を説明していただいた。とてもカフェで開催されることが相応しいとは思えない内容である。小学生が参加していることもあり、随分かみ砕いて説明してくれていたとは思うが、思い返すにつけ難しい。我々が目で見ている宇宙は、時間によって歪められたもので、正確なかたちを表しているものではない、ということは理解できるとしても、あまりに壮大な内容に脳は麻痺してしまう。

 

そのイベントの休憩時間に、宇宙に関連する音楽を流してくれということだったので、定番中の定番「未知との遭遇」「スター・ウォーズ」「スタートレック」「2001年宇宙の旅」のサントラ盤あたりをかけることになった。結局のところ、壮大な宇宙に関するものといったら、巨匠ジョン・ウィリアムズに頼らざるを得ないといったところか。壮大さ、荘厳さを表現するにはやはりオーケストラである。終了後はホルストの「惑星」をCDで流していたのだが、こちらは、ズービン・メータ指揮、演奏はロサンジェルス・フィルのものにした。実は「惑星」は大好きで、手に入る限りの盤を集めたのでいろいろあるのだが、全体ではズービン・メータ、「木星」に限ってはカラヤン指揮のものが最も好きといったところである。

 

最近は古いブルースなどの音源を聴く機会が多いせいか、音楽に優劣などあるのかという疑問が払拭できないである。結局のところ、好みの問題ではないかとは思うが、勿論演奏の巧い下手という評価軸もあろうし、録音の良し悪しは評価し易い。ただそう簡単にはいかないわけで、精神性などという計測しようのない要素も入ってくる音楽に優劣などないのではないかということである。ブルースの音源に関しては、プリミティヴという形容詞がよく使われているが、では有名ブルースマンの音源を真似て自分が演奏したところで、次元の違うプリミティヴさを露呈するだけである。シンプルと言うならまだしも、サン・ハウスやハウリン・ウルフの音源など、本当にプリミティヴなのか甚だ疑問である。

 

ではクラシックのオーケストラは巧いのか。直接演奏しない指揮者の評価も加わって、クラシックの音源の優劣など、語っても意味がない気すらしてしまう。自分の場合は、ポピュラー・ミュージック専門なので、クラシックを語っても詮無いことなのだが、ピアニストの表現技法くらいは理解できる。ではマルタ・アルゲリッチとエレーヌ・グリモーのどちらが優れているのか、などということを語る気はない。まるで別物、でも両方好き、ということになる。閉店後に気分を落ち着けたいときは、グレン・グールドの「ゴルトベルク変奏曲」を聴いたりするが、ジャズ・ピアノより楽しめるときもある。それでも、その後にビル・エヴァンスが聴きたくなってしまうことが多いことも事実である。この辺は好みで語るべきか否かも判断に迷う。

 

所詮、音楽は聴く側の態勢にもよるので、一概には語れない。酒を飲みながらの方が楽しめるものもあれば、コーヒーを飲みながらの方がいい場合もある。強い酒を飲みながら、ロバート・ジョンソンやエルモア・ジェイムスあたりを聴いてハマってしまい、酷く悪酔いしたこともある。ローリング・ストーンズは軽い酒のほうが合いそうだが、ハードロックと強い酒は頗る相性がよい。また、ブルースマンの人生に思いをめぐらすには、強い酒が欠かせない。例外的にハウンドドッグ・テイラーあたりは、ビールで軽やかに楽しく聴ける方がよい。今のところ、最も好きなブルースマンはハウンドドッグ・テイラーである。

 

壮大な宇宙空間に思いを巡らせながらジョン・ウィリアムズのポップな楽曲を聴いていることは実に心地よかった。その一方で、疲れていたこともあってか、強い酒が飲みたいなという考えが頭の片隅に浮かんできていけなかった。件のイベントが終わった後、他の「惑星」などもかけながら片付けをしていたのだが、結局仕上げはエアロスミスになってしまった。店で飲むと帰るのが面倒なので、そこは少々我慢して、帰宅後に開口一番「飲みたいな」となってしまった。そもそも体調のすぐれなかった週の仕上げに飲んでしまったので、翌日はほとんど動けなかった。それでも、たまにはブルースを聴きながら酔い痴れるのも悪くないなと思った次第である。

 



         
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