0071 真夏のBGM(2016.08.08.

昔の東京では33度あたりがその夏の最高気温だったと思う。39度などという温度は、体温より高いわけで、直ぐに具合が悪くなってくる。そもそも気象庁などの言う気温は、日陰の百葉箱の中で計測しているわけで、アスファルトの路上の温度はもっともっと高いことになる。長時間太陽の下にいることは、ちょっと考えれば、かなり危険な行為だと分かるはずである。日向に停車中の車の中の異常な世界は、まったくもって地獄のようである。エアコンが効いた走行中でも、ジリジリと暑い思いをするが、まだましなのだろう。走行中も意識的に暑さを忘れることは可能だが、やはりBGMなどの助けが必要だ。普段はJ-WAVEなどのラジオを聴いている自分も、さすがに真夏は涼しくなるような曲を選んでかけることになる。

 

先日、酷暑の東京を離れ、木曽路の林道を走ることになった。意図してドライヴしたわけでなく、どうしても一度見ておきたかった馬籠宿へ向かう道が意外に快適な山岳路だったというだけなのだが、箱根や伊豆あたりと比べれば道幅も広く、非常に走り易い道だった。問題は気温のみで、こんな山の中でも都会と同じく36度以上、瞬間的には40度といった数字をオンボードのパネルが表示している状況だったのだ。日が陰ると途端に2~3度下がるが、気がつくと39度などとなっている。呆れてしまうほど暑かった。

 

さすがに木曽路はすべて山の中、ラジオもロクに入らずCDのお世話になったが、やはり非常に快適だったのはチルアウトのコンピ盤「イビサ・サンダウナー・プレゼンテッド・バイ・ホセ・パディーヤ」だった。以前にも一度、下町音楽夜話第532曲「カフェ・デル・マーでチルアウト」で触れているが、ホセ・パディーヤのセレクションは非常に心地よい。体温が2~3度下がるような快適さであった。誰の曲かということにはあえて触れないでおく。ケースを見なくても分かる曲は、ロバート・グラスパー・エクスペリメントによるニルヴァーナのカヴァー「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」だけである。それ以外は誰がやっているかを知ったところで、アルバムを買うとも思えない。これらの曲はこのコンピレーション盤の中でこそ存在価値があると思わせる絶妙のセレクションである。

 

また、面白かったのが、眠くならないようにとカミサンがかけてくれた、古いジミヘン・トリビュート盤「パワー・オブ・ソウル」である。エリック・クラプトンやスティング、サンタナからEWF、レニー・クラヴィッツにプリンスといった、新旧の有名どころがカヴァーしているので面白がって買ったものである。結局のところ、ジミ・ヘンドリックスのカヴァー音源でオリジナルを超えるものは無いのだが、リズムだけは進化しているカヴァー・ヴァージョンの方が面白かったりもする。ギターのフレーズでオリジナルを超えるものを提示することが難しいことは、こういったところに登場するミュージシャン、特にギタリストは分かっているようで、原曲に忠実なコピー状態の曲が多い。むしろ頑張るのはアレンジなどの部分で、皆それぞれに楽しませてくれる。

 

今更ミッチ・ミッチェルに文句を言ってもしかたないが、やはりあのバタバタした手数が多いだけのドラムスは、どうにも好きになれない。ブルース曲にしたってタメが無いので、どうにもイライラしてしまう音源が多い。この「パワー・オブ・ソウル」というトリビュート盤は、ジェームス・アル・ヘンドリックスの謝辞からスタートするように、怪しい音源ではないが、参加ミュージシャンのメンツとその個性を確認するだけではもったいない。チャカ・カーンなどのヴォーカリストも頑張っているが、それは置いておいても、微妙に進化したリズムが曲に新たな命を吹き込んでいると思われる個所がいくつも確認できるからだ。特にデジタル・リズムを混在させた音源が面白く聴けるのは、それなりに理由がありそうだ。

 

結局のところ、クルマを運転しているときのBGMは、運転に集中していることもあり、思考がブツ切りで音楽に100%集中しているわけではない。ときどき耳に飛び込んでくる印象的なフレーズが気になってしまい、CDのクレジットを確認したりもするが、やはりリズムに身を任せて、ハンドルを叩いてリズムをとりながら聴いているので、普段とは違った聴き方になってしまうのだ。今回、ジミヘン・トリビュート盤で、チルアウトと同様の効果を得られたように思うのは、テンポを落としてでもリズムをシンプルにして、ノリをよくしている音源が心地よく響くからではないかと思うのである。運転しているときに、あまりに複雑なリズムの曲は耳障りなだけである。たまたまタイミングよく、山岳路のカーヴとシンプルに置き直したリズムの聴き馴染んだ曲の新解釈がシンクロした瞬間、ゾクッとするほど魅力的に感じたと言うべきか。その後もあまり盤を交換せずに、繰り返し聴いてしまったが、なかなかそういう瞬間は訪れなかった。いずれにせよ、一時でも暑さを忘れさせてくれたことに感謝すべきだろう。

 



         
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