0073 ヴァニラ・ファッジ再評価(2016.08.21.

自分にとって好きなドラマーはと言われると、まずはカーマイン・アピス、ジョン・ボーナム、テリー・ボジオとなる。やはりパワフルなドラマーが好きだが、同時にテクニカルな側面、手数の多さも気にはなる。ビル・ブルフォードやカール・パーマーも曲によっては非常に好きなドラマーだが、手数を減らしている曲の方が好きなので、叩きすぎているのだろう。ジェフ・ポーカロは巧いと思うが、好きなタイプではない。TOTOの音源では、サイモン・フィリップスの方が好きだ。まあ、カーマイン・アピスが叩き出す、切れのあるリズムが好きだ。

 

カーマイン・アピスと言えば、BBA、ベック・ボガート&アピスかと思われるだろうか。確かにBBAのライヴ盤の「レイディ」など、それこそ何回聴いたことか。自分が最も多く聴いている音源の一つであることは間違いない。自分の場合、KGBはイマイチだったが、その後のロッド・スチュワートのアルバムも好きだったし、キング・コブラも非常に好きだった。遡ってヴァニラ・ファッジやカクタスも非常に好きなのである。

 

先日、レコードの整理がてら、ヴァニラ・ファッジのアルバムを眺めていて、ロクに「キープ・ミー・ハンギング・オン」以外聴いてないような気がしてきた。ヘヴィーなオルガンをフィーチャーした演奏が、後のディープ・パープルのサウンド・メイキングにも影響を与えたと言われるが、そのオリジナリティ溢れる1967年リリースのファースト・アルバムは名盤として名高いものの、多くはカヴァー曲で占められている。如何せん「涙の乗車券」で始まり、「エレノア・リグビー」で終わるほどビートルズへのリスペクトむき出しなのである。シュープリームスのカヴァーである「キープ・ミー・ハンギング・オン」が大ヒットしたからその印象は薄いが、「エレノア・リグビー」の終盤には「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の歌詞まで顔を出すほどである。当時のビートルズが他のミュージシャンに与えた影響は計り知れないものがあるのだろう。

 

しかし、それ以外は意外な曲がカヴァーされている。A面2曲目はインプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」である。カーティス・メイフィールド作の大名曲だ。これはその後多くのアーティストによってカヴァーされ、またコンサートのオープニング曲に頻繁に利用され、スタンダード化した曲だが、1965年のヒット曲なので、かなり早い段階でのカヴァーということになろう。シュープリームスのカヴァーと合わせて考えると、R&B的な曲をクラシカルなロック・チューンにアレンジすることを常套手段としていたと思われても仕方ない選曲だが、意外にそれだけではなかったところにこのアルバムの価値はあるのかもしれない。

 

A面3曲目は、ゾンビーズの「シーズ・ノット・ゼア」である。ゾンビーズのリーダー、ロッド・アージェント作の名曲だ。こちらも今となってはスタンダード入りしたと言っても過言ではないが、1967年の作品ということを強く感じさせるサイケデリックな仕上がりが面白い。さらにA面4曲目はソニー&シェールの「バン・バン」である。時代の色を濃く反映したアレンジは、古さを感じさせつつも、今ではあり得ないサイケなカラフルさを打ち出しており、むしろ面白いのではないか。

 

このアルバムのB面は「少年時代の幻影」という20秒ほどの小品のパート1~3で括られており、その間にシングル・ヒットした「キープ・ミー・ハンギング・オン」、そしてパティ・ラベルが歌った「フォー・ア・リトル・ホワイル」が挟まれている。そして最後が8分を超えるビートルズの「エレノア・リグビー」のカヴァーで〆るわけだが、なかなか凄い迫力で、片面をあっという間に聴かせてしまう。確かにシングルとしての「キープ・ミー・ハンギング・オン」も、アルバムの中では非常に座りがよく、これはアルバムで聴いて評価すべき曲だなと思わせる。いまさらに随分誤解されているアルバムなのではなかろうか、という考えが浮かんできていけない。

 

結局のところ、ブリッジ的な「少年時代の幻影」以外はすべてカヴァー曲なので、評価もそれなりになってしまうのかもしれないが、アルバム全体の出来は決して悪くないという気がしてしまう。若き日のカーマイン・アピスの切れのいいドラムスも随所で見せ場を与えられており、既にそれなりの評価を得ていたことが知れることも面白い。その後のアルバムでは、ほとんどカヴァー曲は見当たらないので、この盤での評価に対する反省やら様々な思いが影響しているのだろうと思うが、結局はファースト・アルバムほどの商業的な成功も得られていないところが悲しい。その後のオリジナル曲もそれなりに悪くはないのだが、演奏能力の高さとアルバム作りなどの上手い下手は同一線上では語れないものだろうから、残念な気もしてしまう。機会があれば、再評価してあげたいと思わせる名盤なのである。

 

 



         
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