0075 東京JAZZ 20162016.09.04.

運営のまずさで100%満足させてはくれないイヴェントと認識している東京JAZZだが、今年は予想外に満足できた。メンツに関してはさほど期待していなかっただけに、余計に意外なのだ。「パット・メセニーと渡辺貞夫が出る」とだけ聞いており、その他はロクに情報をチェックすることもせずに出かけたこちらも悪いのだが、とにかく土曜日の夜の「the HALL」、東京国際フォーラムのホールAでのステージは大満足だった。

 

パット・メセニーはファースト・コール・ベーシスト、クリスチャン・マクブライドとのデュオで、素晴らしい演奏を堪能することができた。如何せん大好きな二人である。さほどジャズのイヴェントであることを意識するでもなく、スタンダード曲などでサービスしたりしないところは彼等らしいが、常に真剣勝負であることは百も承知、実に素晴らしい演奏だった。特にクリスチャン・マクブライドの固い芯があるベース音は健在で、ボウの音色も素晴らしく、テクニック的には完璧というべきデュオだ。本当に安心して聴けるライヴといっても、これほどのレベルはそうそう無い。少々前衛的なテイストを混ぜることも想定内で、混沌としたノイズの中から立ち上がる希望の光といったメロディは、やはりワン・アンド・オンリーである。実に素晴らしい演奏だった。

 

全体の満足度を押し上げたのは、2番手に登場した、アロルド・ロペス・ヌッサというキューバ人ピアニストのトリオである。素晴らしいテクニックの持ち主で、弟のドラマー、ルイ・エイドリアン・ロペス・ヌッサと息の合った演奏は素晴らしかった。ルイ・エイドリアンはピアノもかなりの腕で、連弾で聴かせたキューバのトラディショナル・ソングも非常に楽しめた。ジャズという枠にとらわれないというコンセプトを持っているのか、例年ジャズ以外のミュージシャン、例えばチャカ・カーンやベイビー・フェイスなども登場するイヴェントだけに、こういったアラウンド・ジャズとも言うべきミュージシャンを紹介してくれるのは嬉しい。

 

特筆すべきは、このトリオのベーシスト、アルーン・ウェイド(Alune Wade アルネ・ワデとする表記もある)である。セネガル出身のこの男、何気に凄い。ヴォーカルも務めるが、とにかく凄いベースを弾く。かなり粗いチョッパーなど見せ場も持っているが、自分の倍ほどもありそうな異様に長い指で、5弦ベースのフレット上を泳ぐ、泳ぐ。他の人間では不可能なポジションが押さえられるようで、独特の裏打ちのような音が混ざっている。今回の東京ジャズ、この男を間近で観ることができただけでもペイしたように思う。

 

3番手は渡辺貞夫BEBOP NIGHTということで、随分豪勢なメンツで83歳になるという御大を盛り上げていた。トランペットのウォレス・ルーニーなどは100%の調子ではなかったのかもしれないが、相変わらずスムースな美しい音色を聴かせていたし、ベースのベン・ウィリアムスは、先の2人に続いてのステージだけに気の毒な気もしたが、安定したいい演奏を聴かせていた。ピアノのビリー・チャイルズはお初だったが、堅実な演奏で取りまとめていたところを見ても相当の手練れと見た。さほど個性的な演奏を聴かせるタイプではないのかもしれないが、いいミュージシャンだという臭いがプンプンしていた。本人名義の演奏を聴いてみたいと思わせる内容ではあったが、こういったイヴェントの短いステージではこれでも十分だろう。ジェフ・テイン・ワッツのドラムスはいつもながらといったところだが、彼も少々ビバップということを意識したか、随分アイ・コンタクトを探りながら叩いていたようだ。御大、渡辺貞夫氏は、年齢に関する心配は無用だったし、彼独特の柔らかな音色が健在だったことは驚きだった。

 

何はともあれ、ジャズの間口を広げたことに、このイヴェントの存在意義はあるのだろう。有名どころのジャズ・ミュージシャンが大挙して来日し、毎度それなりに面白いセッションも実現してくれる。今年で15回目となるそうだが、ようやく運営のまずさは消えたようだった。それにしても、異な雰囲気のイヴェントである。オジサンの祭典とでもいった趣きの観客席は、季節的なこともあって汗臭いし、昔のジャズ喫茶並みにオシャレな感じが全くしない。一部バブリーな雰囲気を漂わせた人種は見受けられるが、とても音楽が好きできているとは思えない風情だったりする。また、お行儀悪く、写真を撮ったり録音したりしている中国人の若者が増えていることも気になる。

 

音楽の販売がダウンロード主流になり、CDが売れなくなって久しいが、音楽のあり方自体が随分変容しているのだろう。ライヴに求められる意義も変わってきているのだろうか。ヒット・チャートを賑わせている若いミュージシャンたちにとっては、レコードのプロモーションとしてツアーをすることが主流だった時代とは、明らかに違った意味が求められているようだ。ジャズの場合は、さらに違った意味合いもありそうだ。有望な若手のショウ・ケース的なものならまだしも、敬老の集い的になってないか、ネーム・ヴァリューに大金を支払うのは日本人だけなのか、といったことが頭をよぎるが、まあ難しく考えず、楽しめればいいじゃんとも考えられる。やはり、演者本人が満足しているのなら、よしとするべきなのだろう。

 



         
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