0081 ノーベル文学賞(2016.10.16.

かねてから噂にはなっていたが、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した。文壇側からしてみれば面白くないだろうし、音楽愛好家にしてみれば、「選考委員はよくやった」と思っている方も多いだろう。自分は村上春樹にとらせたかったという気持ちが強く、嬉しい気もするが、何でまたといった気分である。反戦歌等の影響力など評価の対象となった歌詞の価値が分からないわけではないが、過去の超有名盤をいまさら蒸し返すのも気が引ける。「時代は変わる」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」などといった歌詞を生み出した人間であれば、過去に拘って生きているはずもなく、ノーベル文学賞がどうしたという態度も当然のものとも思える。如何せん現在もライヴ活動を続けている現役に対して、過去の曲の話題ばかりが沸騰しているマス・メディアの現状が笑えてしまう。

 

自分は1960年生まれなので、60年代の名盤などは後々遡って聴いたもので、さほど思い入れがあるわけではない。ボブ・ディランに限らず、ビートルズであれ、ローリング・ストーンズであれ、リアルタイムで聴いた70年代以降の音源のほうが遙かに愛着もある。自分にとってのボブ・ディランの入り口は「ラスト・ワルツ」の「アイ・シャル・ビー・リリースト」である。また同じ頃聴いた「地下室」の各曲や「ハリケーン」あたりが最も印象に残っている曲であり、一般的なボブ・ディラン像とは少々異なっているのかもしれない。また、ボブ・ディランに関しては、29年間の公務員生活に終止符を打った翌日にあたる2014年4月1日に、何か記念になるライヴはないものかと探し、偶然ZEPPダイバーシティ東京で開催されたボブ・ディランの来日公演を見つけ、体調不良を押して観にいったのである。その日に演奏してくれたわけではないが、その日から「ライク・ア・ローリング・ストーン」が自分にとって象徴的な曲のひとつになったのである。

 

自分の場合、46年もの間洋楽にハマり続けている人間であるにもかかわらず、ビートルズやボブ・ディランをちゃんと聴いたのは21世紀になってからなのである。ある意味、縁が無かったとしか言いようがないのだが、アナログ・レコードを集める対象からも漏れていた。従って、ボブ・ディランのアナログ・レコードをリアルタイムで購入したのは、2006年の「モダン・タイムズ」が最初であり、2009年の「トゥゲザー・スルー・ライフ」、そして2012年の「テンペスト」あたりが最も聴き込んだアルバムであり、店でもこの辺りは時々流している。その結果、天邪鬼と言われることにもなる。2014年に観たライヴはこの辺の曲が中心で、ほとんどの観客が不満を募らせる中、自分はチャーリー・セクストンのギターの素晴らしさに歓喜し、随分楽しめたのであった。

 

とにかく、こちらはいい機会と捉え、ノーベル文学賞受賞の翌日からボブ・ディランを集中的に聴いている。武道館ライヴや1976年のライヴ音源など、割とベスト・ヒット・ライヴ的な選曲の盤は繰り返しかけているが、加えて「新しい夜明け」「血の轍」「欲望」辺りは、やはり好きなので毎日聴くことになる。その際思うのは、やはり歌詞で聞かせるミュージシャンなのかということだ。印象的なメロディは確かにある。メロディメイカーとしてのボブ・ディランという切り口から考えると、やはりローリング・サンダ・レビュー時期のルーツ回帰的な音源が素晴らしいと感じる。その一方で、一日中ボブ・ディランを聴いていると、飽きるのも事実である。ビートルズやデヴィッド・ボウイ、レッド・ツェッペリンなど、一日中聴いていても全く飽きない連中もいるわけで、その点では自分の中で評価を落とすことになっている。歌詞で聞かせるという部分に蓋をしてしまうことができる英語圏以外の聴衆は、また違った視線を持つことができるのである。

 

一方で、多くのカバーを生み出したことも面白い。聞き比べなどすると、また別の見方もできるだろうが、ジミ・ヘンドリックスの「見張塔からずっと」やエリック・クラプトンの「天国への扉」など、オリジナル曲を圧倒してしまうカバー曲が存在することは決して否定できない事実なわけで、朴訥とした歌い方のシンプルな素材を用いて、自分の色に染め上げる作業は多くのミュージシャンが楽しんだことだろう。自分にとって、ボブ・ディラン・カバーのベストは、ローリング・ストーンズの「ストリップド」というライヴ・アルバムに収録されている「ライク・ア・ローリング・ストーン」である。自分はこれ以上のボブ・ディラン・カバーを知らない。

 

ノーベル賞はやはりボブ・ディランほどに年齢を重ねないと受賞できないのだろうか。他の分野では、若い研究者も受賞することがあるが、文学賞の最重要候補、村上春樹氏はまだ若すぎるのだろうか。彼の場合、今後も受賞の可能性が多分に残されているが、毎年のように筆頭候補に挙げられては受賞できないということを繰り返されるのもシンドイ気がする。ボブ・ディランの受賞は嬉しい反面、やはり村上春樹にとらせたかったという気持ちが燻ぶらないわけがない。

 


   

         
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