0086 寂しい年(2016.11.19.

11月も後半に入り、年の終りが見えてきた。今年は、音楽好きにとって、忘れようもない寂しい年になってしまった。年頭いきなりデヴィッド・ボウイの訃報で幕をあけ、グレン・フライの訃報に絶句し、イーグルスの関連音源を聴き漁った日々のことは忘れられない。さらに、ここにきて、またまたミュージシャンの訃報が相次いでいる。りりィ、レオン・ラッセル、レナード・コーエン、モーズ・アリソン、それなりに好きなミュージシャンの名前が並んでしまったことに、あらためて悲しい気持ちに包まれている。レオン・ラッセルが74歳、レナード・コーエンが82歳、モーズ・アリソンが89歳と、それなりの年齢に達しているので驚くことではなかったが、りりィはまだ64歳である。若い人たちからみれば十分高齢者かもしれないが、自分のような高齢者の入り口に立っている人間にとってみれば、レオン・ラッセルですら早いと感じてしまう。

 

高齢でも現役として活動している人を尊敬する。体力が要りそうなミュージシャンではなおさらというところだ。ローリング・ストーンズあたりの元気よさがよく話題には上るが、60年代から活動しているミュージシャンは皆そろそろ70歳を超えているわけで、75歳でノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランも、いまだにライヴ・ツアーをやっているわけで、称賛すべきことなのだろう。自分が70代になったときのことを想像すれば分かり易い。できるわけがない。ましてやステージを駆け回っているミック・ジャガーの体力といったら、やはり異常というレベルだ。

 

レオン・ラッセルは数年前にライヴを観ており、次はないかもしれないと思ったことが蘇ってきた。年取ったなあと思わせる外見とは裏腹に、アタックの強いピアノの弾き方にせよ、十分に力強いヴォーカルにせよ、バリバリの現役感が嬉しかったが、杖をついてステージから去っていく姿に、寂しさがこみ上げてきたことが忘れられない。人間誰しも年は取るのだが、若いころの姿を映像で記録されている分、現在の姿とのギャップが余計気になるのかもしれない。

 

スポーツ選手は体力的に限界があるので加齢は最大の問題でもあろうが、それに比べるとミュージシャンはまだましだ。枯れた味わいが加わって魅力を増す場合もあるわけで、加齢が常にマイナスに作用するわけではない。レナード・コーエンやモーズ・アリソンなどは、晩年に再評価されたこともあり、加齢がプラスに作用した好例のようにも思われる。自分の場合、現役と思って晩年の彼らと接したわけで、若いころの音源はさておき、その渋さが心地よかったのである。

 

2010年にリリースされたモーズ・アリソンの「ウェイ・オブ・ザ・ワールド」は、ジョー・ヘンリーがプロデュースしていたため、彼の関連音源を片っ端から聴き漁っていた自分にとっては、非常に魅力的なアルバムだった。如何せん、ジョー・ヘンリーは伝説のランブリン・ジャック・エリオットや名プロデューサー、アラン・トゥーサンのアルバムをプロデュースしている人間である。興味が湧かないわけがない。ましてや、ザ・フーがカヴァーした「ヤング・マン・ブルース」の作者がモーズ・アリソンなのである。ヒット・チャートを賑わすような曲ばかりが持て囃される中、滋味溢れるこういった作品を知り得たことが嬉しかった。ジョー・ヘンリーには本当に感謝している。

 

自分のように、悪食なまでに幅広く何でも聴く人間は少ないかも知れないが、レナード・コーエンはやはり気になるミュージシャンだった。独特のダンディズムに憧れる部分もあった。一部に固定的なファンがいるミュージシャンである上、詩人としての評価も確立しているわけで、訃報に接してもっと騒がれて然るべきと思ったが、既に過去の人間と扱われたか、残念ながら彼の訃報の扱いは、実に小さいものだった。比較しても詮無いことだが、年当初に亡くなったデヴィッド・ボウイの扱いがあまりにも大きく、違和感があるほどだったことに比べると、あまりにも扱いが小さい。レナード・コーエンは20世紀を代表するミュージシャンであり、小説家であり、詩人である。決して忘れてはならない。

 

音楽には絶対的な価値基準などはない。あくまでも個人の好みで評されるべきものでもある。料理の味もそうなのだが、個人の好みで大きく評価が変わる場合は多々ある。それでも一定の数の人間から評価される場合、マスコミももう少し配慮して欲しいとは思う。70年代に音楽を聴いていた人間にとって、りりィも懐かしい名前であり、決して忘れることのないヒット曲がいくつもあるミュージシャンだ。ドリカムの吉田美和の義母ということが長々と書かれていたが、そうではなくて、どういったヒット曲があったかなど、本人を追悼する内容にして欲しかった。今後も自分が聴き親しんだミュージシャンの訃報に多く接することになるのだろう。ああ、寂しい、寂しい。私は泣いていますよ、ホント。

 


   

         
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