0088 ブルー&ロンサム(2016.12.04.

ザ・ローリング・ストーンズの11年振りの新作「ブルー&ロンサム」が届いた。やたらと馴染みのミュージシャンが亡くなっていった寂しい年である2016年の最後に、何とも嬉しいリリースだ。当然の如くアナログ盤を注文しておいたのだが、なんと発売日の翌日には配送され、アナログ盤を取り巻く環境の改善にも驚かされた。国内盤CDの通常盤はカレンダー付きで5200円、デラックス・エディションが7560円、とても買う気になれない価格である。相変わらずアナログ盤は輸入盤しかないが、こちらは2枚組とはいえ4000円もしないわけで、CDに手を出す理由が見つからない。ちなみに輸入盤CDは1700円程度である。意識的にダウンロード販売に移行させようとしているのか。この価格設定は早急に見直さないと、音楽業界全体がロクでもないことになり兼ねないような気がしてならない。CDが売れないと言われて久しいが、あえて売れなくしてどうする。

 

さて、何はともあれ、元気なジイサンたちだ。恐れ入った。原点回帰のブルース・アルバムだの、たった3日で録音されただの、エリック・クラプトンが参加しているだの、いろいろ情報は伝わってきたが、やはり聴いてみないと分からないと思い、何も考えずにシュリンクをびりびり破りすて、針を落としてみた。そして1曲目「ジャスト・ユア・フール」のイントロ1発でノックアウトだ。いやはや、もうビックリ、凄い音圧である。何か特別な仕掛けがあるわけではあるまいが、素晴らしい録音であることは10秒も聴けば思い知らされる。以前から上手いとは思っていたが、ミック・ジャガーのハーモニカがどえらい迫力で鳴っている。早速にブルースまみれの週末となることが決まった。

 

残念ながらカフェGINGER.TOKYOには、それほど多くのブルース・アルバムが置いてあるわけではない。ロバート・ジョンソンやサン・ハウス、バディ・ガイにジュニア・ウェルズ、そして大好きなハウンドドッグ・テイラーなどが数枚ずつある程度である。スティーヴィー・レイ・ヴォーンやジョニー・ウィンター、大木トオルなどもあるか。いずれにせよ、清澄白河のカフェで昼間に鳴らすのに相応しい音楽ではなさそうだが、そんなことはお構いなーし。こういった重要盤が届いた日は、続けて繰り返しかけることはしないまでも、間に別の盤を挟みながら、1日3~4回は聴くことになる。1面に3曲ずつ2枚組4面で12曲、ひっくり返すのが面倒ではあるが、とにかくお構いなーし。

 

凄い、凄い。好みの演奏が立て続けといった様相で飛び出してくる。ブルースと言っても有名曲はほとんどない。歴史に埋もれてしまったマイナーな曲ばかりだ。この選曲に関してもいろいろ取り沙汰されるだろうが、さすがとしか言いようのない堂々とした演奏が嬉しいではないか。何はともあれ、嬉々として演奏している様が見えそうだ。ローリング・ストーンズをブルース・バンドと呼ぶことは少ないかもしれないが、60年代の音源を集めた「ザ・ロンドン・イヤーズ」などを聴くと、やはりブルース・ベースであることは否めない。60年代に出てきた英国のロック・ミュージシャンは、ベック、ペイジ、クラプトンのギタリスト連中に代表されるように、みんなアメリカの連中よりも素直にブルースのよさを見出し、黒人音楽へのリスペクトを表してきたのだ。事あるごとに原点回帰的な演奏をしてみせることも面白い。

 

リック・ネルソン&ストーン・キャニオン・バンドの「思い出のガーデン・パーティー」という曲をご存知か?ここでリック・ネルソンが歌っているのは実際の体験なのだが、マディソン・スクエア・ガーデンで開催されたイベントで、ローリング・ストーンズの「カントリー・ホンク」を演奏して大ブーイングを浴びたのである。彼は曲の途中でステージを下りてしまい、そのまま二度と戻らなかったのである。ここでは「もしすべての人を楽しませられないなら、自分で楽しむしかない」と歌われる。自分はこの1972年のヒット曲の歌詞が大人になるまで理解できなかったが、カントリー・サイドの料簡の狭さを皮肉っていることに思い至り、落ち込むほどに考えさせられたことが忘れられない。その象徴として、英国から黒人音楽にリスペクトを送り続けたローリング・ストーンズの存在があることが面白いではないか。60年代の終り頃は、そんな彼らもカントリー・フレーバーを曲のアレンジに取り込んでいたこともあった。あらためていろいろ聴き直してみるか。

 

先週はエリック・クラプトンが、亡きJ.J.ケイルをゲストに迎えた、2007年のライヴ音源「ライヴ・イン・サン・ディエゴ」のアナログ盤も届いた。こちらはゆとりのあるカッティングが施された3枚組で、実に深い鳴りが印象的である。デレク・トラックスが参加していることも嬉しい。このあたりのレベルになると、肌の色など関係なしに、世界トップ・レベルのブルース・ギターが堪能できる。実は同時に「ジ・エッセンシャル・スティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブル」のアナログ盤も届けられた。こちらも掛け値なしに素晴らしい盤である。おかげ様でしばらくはブルース漬け確定だ。クリスマス・ソングを聴いているヒマなんぞ…やはりないな。

 


   

         
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