0090 名カヴァーはいずこ(2016.12.17.

毎月カフェで開催しているトーク・イベントがひと段落し、年明けから新シリーズに突入することとなった。毎月第2土曜日の夜に、3時間ほどレコードをかけながらしゃべるスタイルは変更せず、これまでの年代で区切っていたテーマをもう少しフレキシブルにして、いろいろ楽しい企画にしようと考えている。20171月は「The Comparison Vol.1」、要するに聴き比べ会である。オーディオ的にどう違って聞こえるかを比べることは、自分自身が苦手なので、あまり食指が動かない。どうもオリジナル盤に拘らない性質はこの辺からきているようだ。やはり名曲のオリジナルと名カヴァー曲を聴き比べるのが、面白いというか基本ではなかろうか。

 

大量のカヴァー曲を生み出し続けているビートルズやボブ・ディランを中心に据えれば、準備する側は簡単だが、さほど面白味がないようにも感じる。特にビートルズは、普通にカヴァーしている限り、オリジナルを凌駕するものがほとんどないと思うし、ボブ・ディランの曲をうまいヴォーカリストが歌ったところで曲の本質を捉えていると言えるだろうか?一方で、ジャズ・アレンジの素材としては魅力的だろう。有名どころでは、ウェス・モンゴメリーの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」や、キース・ジャレットの「マイ・バック・ペイジズ」などは、聴き比べといわず、普通に聴くだけでも楽しめてしまう。アル・ディ・メオラのビートルズ・トリビュート盤「オール・ユア・ライフ」は、超絶ものの演奏も素晴らしければ、レコーディングのクオリティも抜群で、どの曲を選ぶか悩むことになりそうだ。一方でメタル系のバンドが集まったビートルズ・カヴァー集にも素晴らしいものがあり、アレンジの妙を聴き比べる面白さはそそられるものがある。

 

悩ましいところは他にもある。例えばブルース・クラシックは多くのカヴァーを生み出しているが、あまりにも多くのミュージシャンが同じ曲をやっていることもあって、どれを聴き比べるか絞れない。企画的には、例えばエリック・クラプトンを中心に据えて、他のカヴァーと聴き比べるなどといった工夫が必要だろう。エリック・クラプトンは誰もが認める素晴らしいブルース・ギタリストなのに、いざ他のギタリストと聴き比べると、意外なほど敵に軍配が上がることになる。聴き比べという行為は、意外と見え難いものを見えるようにする行為でもあるのだ。

 

例えば、大ヒット盤「ジャーニーマン」に収録されていた「エニシング・フォー・ユア・ラヴ」は、前年リリースのジョニー・ウィンター「ウィンター・オブ’88」に収録されている同曲の足元にも及ばない。クラプトン版はシンセ・ドラムまで使っているために、今聴くとかなりプアに感じられる。どう考えても、リズムをいじり過ぎているアレンジが、分を悪くしている。どちらもポップ過ぎる嫌いはあるのだが、ジョニー・ウィンター版のストレートなブルース・ギターが好印象となる。続けてプレイして聴き比べることで、差異がより明確になり、正直驚かされる。またブルース・ロック・ギタリストは、スティーヴィー・レイ・ヴォーンであれ、ジョニー・ウィンターであれ、素晴らしいカヴァーが多いので、聴き比べ会の素材にはうってつけだ。そういう意味では、名ギタリストが必ずしも名コンポーザーであると言えないことも面白い。

 

多くの名カヴァーを生んだ名コンポーザーの代表はキャロル・キングだろう。職業作曲家時代にジェリー・ゴフィンと共作した名曲の山は避けては通れない。彼女を中心に据えればまた面白い展開も見えてくる。ただし選ぶ曲を間違えると企画の面白さが減じてしまう。好例は「ロコ・モーション」だ。リトル・エヴァ、グランド・ファンク、カイリー・ミノーグといったミュージシャンが代を超えて大ヒットさせているうえに、エマーソン・レイク&パウエルまでもがカヴァーしている。これらを単純に聴き比べても時代の違いによるリズムの進化程度しか語れない。曲自体は印象的でおぼえ易いが、語る素材として、さほど面白いとは思えない。

 

一方で「君の友だち」であれば、大名盤「つづれおり」収録の作家バージョンとシングル・ヒットしたジェームス・テイラー版は当然として、さらにロバータ・フラック&ダニー・ハザウェイ版も素晴らしければ、ダニー・ハザウェイの大名盤「ライヴ」に収録されたテイクの素晴らしさは語り尽くせないものがある。その一方でマイケル・ジャクソン少年も、ソロ・デビュー作「ガット・トゥ・ビー・ゼア」でかわいらしくカヴァーしている。いずれも素晴らしい素材だ。ソウル・ミュージシャンに多くカヴァーされたこの曲の持つ意味や背景は、語らないわけにはいかない。公民権運動が盛んだった時代にヒットしたことは、歌詞を見れば納得もするが、その一方でそのことをよしとしなかった人々の感情も語られるべきなのだろう。

 

斯様に、曲を中心に据えても、人を中心に据えても、面白い聴き比べ会は企画できる。しわがれ声対決はトム・ウェイツのオリジナルに軍配が上がるのか、はたまたロッド・スチュワートの百戦錬磨のポップネスに勝機があるのか?果たして、ジェフ・ベック(BBA)の格好良いギターは、ドン・ニックスのオリジナルを超えられたのか?ブルース・スプリングスティーンの曲も多くカヴァーされたが、彼の詩情はカヴァーできるのか?…いやはや、1回2回で終われるものではない。最低でも20~30時間は必要になりそうだ。当然ながら、資料も充実したものが期待されるだろう。いまだに気がついていない名カヴァーが、他にも多くありそうな気がしてきた。この準備をすることは、またまた、楽しくも悩ましい日々となることは確実だろう。

 







         
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