0092 2016年の喪失感(2016.12.31.

1月11日(亡くなったのは10日)、デヴィッド・ボウイの訃報で幕を開けたような2016年は、大きな喪失感に包まれた年となってしまった。1月にはグレン・フライやジェファーソン・エアプレインのポール・カントナーの訃報まで飛び込んできて、辛い年になることが確実となった。2月に入ってすぐにEWFのモーリス・ホワイトの訃報にも驚かされた。3月、5人目のビートルズ、ジョージ・マーティンはご高齢だったろうから驚きもしなかったが、その2日後にはキース・エマーソンの自殺という悲しい報せに呆然とした。その後もずいぶん多くのミュージシャンの訃報に接することになったが、その頃には覚悟ができていたように思う。

 

4月は、ガトー・バルビエリ、マール・ハガード、プリンス!、ビリー・ポールときて、「おいおい、多いな」と呟いたことが忘れられない。5月には富田勲も亡くなっているが、ここらで少しペースは落ちてくれた。6月はスコッティ・ムーア、8月にはボビー・ハッチャーソン、トゥーツ・シールマンスといったあたりが亡くなったが、いずれもご高齢ではあるので、「お疲れさん」といった感覚に近い。10月後半からまた増えてきてしまったことが何とも悲しい。ピート・バーンズ、ボビー・ヴィー、11月はレナード・コーエン、りりぃ、ヴィクター・ベイリー、レオン・ラッセル、モーズ・アリソン、朝本浩文まで亡くなっている。そして、12月に入ってグレッグ・レイク、ステータス・クォーのリック・パーフィット、そして何とジョージ・マイケルの訃報にとどめを刺された気分になった。

 

クラシック界ではピエール・ブーレーズとニコラウス・アーノンクールの訃報に驚いたが、その他にも多くの訃報に触れ、悲しい気分になった。仕事で関わったことがあるブートロス=ブートロス・ガーリ元国連事務総長、大好きだった哲学者ウンベルト・エーコといった人物の訃報も目が点になった。モハメド・アリ、鳩山邦夫、アルビン・トフラー、マイケル・チミノ、永六輔、大橋巨泉、元千代の富士の九重親方、ソニヤ・リキエル、ジーン・ワイルダー、アンジェイ・ワイダ、フィデル・カストロといったところだ。1129日に墜落したラミア航空2933便に乗り合わせた多くのブラジルのサッカー選手たちに至ってもそう、そしてレイア姫のキャリー・フィッシャー、さらにはピエール・バルーに根津甚八と、もう驚くばかりだ。これまで挙げた人々は、ミュージシャン以外もそれなりに有名人ばかりだが、その他にも多くの人々がテロや空爆、震災などで命を落としたわけで、随分多くの人の死というものを身近に感じた年だったのである。

 

ここ数年、身内の不幸というものが続いていたので、どうしても人生の終わらせ方ということに考えを至らせる機会が多くなったが、自分自身のこととして考える機会も増えた。清澄白河で音楽を楽しめるカフェをやっているのも、つまるところ、人生一回きり、やりたいことは全てやってから死にたいという考えがベースにある。今手元にあるアナログ・レコードが約5千枚、CDなどがさらに5千枚強、自分が死ぬまでにすべてを聴けるかというと、おそらく無理だろう。それなら音楽好きのお客さんとシェアして楽しむことが有効活用というものだ。あまり拘らずに、欲しい方にはお安く譲ってしまうということも、そういった考えからすれば、理にかなっているわけだ。やはり自分はまともなコレクターではない。

 

ここのところ年末は京都で過ごしている。我が家の年中行事として、清水の舞台から夕景を眺めることを繰り返しているのだ。今年も来ることができたということで、安堵と感謝の気持ちとともに年を越すことの歓びがすっかり定着してしまった。毎度特別に目的をもって旅するわけでもないので、有名な神社仏閣を巡ったり、本屋やレコード屋を覗いてみたり、町中をうろついているだけなのだが、これが随分精神的には効くのである。歴史の長さが醸し出している何かしらがそこにはあるのだろう、自分の悩みなどちっぽけなものだと客観視できるようになる。やたらと歩き回るので、つれあいには申し訳ないが、美味しいものなど自分なりの楽しみを見出しているようなので、特に問題はないのだろう。

 

2016年のベスト10など考えるも、あまりの喪失感に何がよかったかなど思い浮かばない状態だが、ローリング・ストーンズ「ブルー&ロンサム」がやはりベストか。その他には、ロバート・グラスパー「アートサイエンス」、ノラ・ジョーンズ「デイ・ブレイクス」、ウィルコ「シュミルコ」、エリック・クラプトン「アイ・スティル・ドゥ」、アデル「25」、ルーマー「ディス・ガールズ・イン・ラヴ」といったところだ。収穫としては、かなり状態の良好な「ロング・ブランチ/ペニー・ホイッスル」の米国オリジナル盤を普通のお値段で手に入れてしまったことに尽きるのだが、決して尽きることのない音楽趣味の業の深さに呆れてもいる。今年は音楽とトークのイヴェントも好評で、他人様と楽しく音楽を共有することもできたことが嬉しいが、多くのミュージシャンが亡くなったことの喪失感と相殺されてしまったような気がしてならない。何とも寂しい気分に包まれた年越しになってしまった。

 


   

         
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