0093 遊びにきてね~(2017.01.07.

あけましておめでとうございます。今年も徒然なる音楽談義にお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 

どこを見ても「変化の年」ということばかり書かれている。AIに仕事を奪われるという危機感を煽る文章がやたらと目につき、科学技術の進歩は目がまわるようなスピードで押し寄せてくる。技術革新は常識を超えたところに価値があるのだろうから、予測などつくはずもない。その一方で、変化の象徴とも言えるトランプ次期大統領の、思慮の欠片もない発言に振り回される政治や経済の新聞記事は、まったくもって読む価値が見出せない。正月1日の新聞は、非常に充実した特集記事が多く、時間をかけて読むことを楽しんでいたが、今年は全くもって面白くなかった。社会構造はここ20年ほど大きく変化し続けているので、昔と同じことをやっていて済まされるわけはない。暮らし方や働き方が変わらないほうがおかしいわけで、変化、変化と言われても、いまさら何を言っているんだという感覚しか持てない。

 

自分のような、アナログの世界にどっぷり浸っている人間でも、音楽の楽しみ方は変化している。ウェブの情報の不正確さが恨めしいが、ミュージシャンの情報はウェブサイトやSNSを通じて得ているし、ウェブ経由でアナログ・レコードを入手する機会も増えた。働き方は当然ながら激変したわけで、アナログ・レコードを聴かせるカフェの情報提供は、SNS中心にならざるを得ない。スタッフ間の連絡は、LINEやフェイスブックのメッセンジャーだったりする。情報共有という意味では、LINEの存在は有り難い。

 

メディアに関する情報はツィッターが充実しているが、見方を変えれば、レコード屋や本屋の部分の情報は、ツィッターを使わないわけにはいかない。一方長々とした文章での情報提供は、内容が正確で価値ある情報でも、結果的に読んでもらえないのでは意味がないことになる。写真や動画でヴィジュアル的に伝えられるものは、インスタグラムなどを活用して、視覚に訴える工夫を徹底する必要がある。自分の場合、カフェの中に7インチ盤専門店と古書店があるわけで、単なる飲食店とは業務形態が異なるかも知れないが、飲食店経営も昔と同じことをやっていたのでは、続けることが難しい時代になったということだけは分かっているつもりである。

 

何故こんな時代にアナログ・レコードの売上が伸びているのか、ということがよく話題に上る。伸びたと言っても全体の5%程度の話であって、世の中がダウンロード販売に移行してしまったことには変わりはない。影響を受けたのはCDであって、データとしての音楽はダウンロードでもいいわけだが、器としての魅力がCDよりもアナログ・レコードの方が大きいというだけだと考えている。ジャケットの魅力も含めたパッケージ・メディアとしてのアナログ・レコードは実によくできていた。

 

結局この流れはホーム・オーディオから脱却して、音楽を街に連れ出せるようにしてしまったウォークマンまで遡れる。ウォークマンとイヤホンで、いつでも、どこでも、自分の好きな音楽が聴けるという魅力は大きかった。しかし、そのこと(ユビキタス、ポータビリティ)が音楽をパーソナルなものにし、過度に手軽さを重んじる方向性と相俟って、音楽というものの存在はどんどん軽くなって行ってしまった。ついでに聞く、ながら聞きが当たり前になり、真剣に音楽を聴くというスタンスが古いものとして扱われた時点で、趣味性が大幅に減じられた。業界にとっては、自業自得なのだろう。趣味性が高いアナログの魅力は再認識されるかもしれないが、手軽さが決め手のデジタルの世界では、CDがダウンロードに勝てる見込みはもう無いのだろう。

 

ポール・マッカートニーの来日公演の話題が飛び交う2017年、どんな年になるのやら。どんなに社会が変化しようとも、自分にとって音楽の価値は変りようがない。自分の意識が、所有からシェアに変わってしまってからは、自分の聴き方もずいぶん変わった。自分自身が聴くということよりも、イベントやカフェのBGMとして、どう聴かせるかということばかり考えるようになってしまった。これも変化といえば変化なのだろう。

 

今年も、清澄白河から、レコードや本などのメディア情報を発信するのみならず、発信することの楽しさをシェアするというスタンスは推し進めたいと考えている。次世代に受け継ぐことを、緊急性の高い重要課題と認識してはいるつもりだ。問題は、受け継いでくれるヒマな次世代がいるか、ということかもしれない。あえてカフェというハコを持って、こちらの顔が常に見えるようにしたからには、少々無理してでも推し進めたいと思う。「遊びにきてね~」と言いたいだけなんだけどね…。

 


   

         
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