0094 The Comparison Vol.1(2017.01.15.

昨夜は月1回開催している音楽とトークのイベントだった。新年からは、趣向を変えて、「The Comparison」という聴き比べ会を始めたのである。随分早くから準備を始めた割りには、結局直前までバタバタしてしまったが、何とか無事第1回を終了することができた。天気予報では雪になるかなどとおどされたが、結局恐ろしく寒かったものの、降ることはなかった。そのせいとばかりは言えないが、例月に比べ、お客様は少なかったことが残念だ。それでもご参加いただいた皆さんには、おおいに楽しんでいただけたようで、それが何より嬉しいというものだ。

 

結局聴き比べて面白いものはどういうものかということを考えると、やはりまず人気のある有名ミュージシャンがカヴァーしていることが好ましい。マイナーなミュージシャンの場合、有名なオリジナル曲を凌駕する好カヴァーでなければ、おそらく満足してもらえるとは思えない。また、聴き比べたときに、各ミュージシャンの個性が感じられるものほど面白いのではなかろうか。結果的に比べる両者の違いがしっかり感じられるほうが楽しめる。また、切り口を変えて、多くのカヴァーを生む曲とはどういうものなのか、ということを考えるのも面白い。思うに、ただ好きな曲をカヴァーしたというだけでは、名曲(名カヴァー)は生まれないと思うからだ。

 

イベントは18時きっかりにスタートした。その直前まで不調の機器と格闘していたので、1曲目がスタートしたときには、吹き出す汗とカラカラの喉で酷いことになっていた。静電気のせいか、メインで使っているターンテーブルが無視できないノイズを出すので使えない。しかもPCは映像を出せば音がでない、音を出せば映像が出ない、結局音を出すことを選ばざるを得ない、という状態だったのだ。まったくもって祟られたイベントのようにすら感じている。しかし、イベントはお客様に楽しんでいただくことが大事、何とか気を取り直して、予定していた1曲目、エディ・コクランの「サマータイム・ブルース」からスタートだ。聴き比べの対象は、ビーチ・ボーイズ、定番のザ・フーは「ライヴ・アット・リーズ」、その他にT.Rex、オリヴィア・ニュートン=ジョン、RCサクセッション、そしてラッシュと盛り沢山だ。ラッシュの「フィードバック」に収録されたテイクは、この曲の正常進化形のようで、惚れ惚れする演奏だ。

 

次はテンプテーションズの1966年のヒット曲「エイント・トゥ・プラウド・トゥ・ベッグ」だ。まるでこちらがオリジナルかと思いたくなるような、ローリング・ストーンズのカヴァーに敬意を表しつつ、ホール&オーツ85年の「ライヴ・アット・ジ・アポロ」を楽しんだ。そして3曲目は初出がジョニー・ウィンター88年の「ウィンター・オブ‘88」に収録された「エニシング・フォー・ユア・ラヴ」である。比較対象はエリック・クラプトン89年の「ジャーニーマン」に収録されたテイクである。ポップ過ぎる嫌いはあるものの、ブルース・ギター対決はジョニー・ウィンターに軍配があがる。またここでは、作者ジェリー・リン・ウィリアムズの紹介に時間を割いた。そして4曲目は、ポール・マッカートニー作だが、初出は映画「マジック・クリスチャン・ミュージック」のサントラに収録されたバッドフィンガーのテイクである。比較対象はエルトン・ジョン、そして90年代にザ・ビートルズの「アンソロジー3」でリリースされた作者のデモ・テープ版、さらにはジョニー・デップらのハリウッド・ヴァンパイアーズのデビュー盤に収録された、ポールとアリス・クーパーがヴォーカルをとるテイクである。現代の音が凄まじい。

 

ここからは、「ボツ・テイク2選+1」と題して、ローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」と、イアン・ハンターの「ジャスト・アナザー・ナイト」の2曲を選んだ。前者のボツ・テイクは、昨年大きな話題となった「ウィズ・エリック・クラプトン」版である。実はアル・クーパーもクレジットされていることなどを紹介しながら、聴き比べた。リズムの違いも面白いが、やはり誰のギター音かを詮索しながら聴くのが楽しい。「ジャスト・アナザー・ナイト」のアーリー・ヴァージョンは、まるでブルース・スプリングスティーンのようなテイクなのだが、それもそのはず、ロイ・ヴィタン、ゲイリー・タレント、マックス・ワインバーグといったEストリート・バンドの面々が起用されているのである。さらに「+1」としたのは、ブルース・スプリングスティーンの個性を感じるついでに、パティ・スミス版と作者版の「ビコーズ・ザ・ナイト」を聴き比べたのである。これも素晴らしい経験だった。

 

次は特集「ジェフ・ベック×ドン・ニックス」と題して、「ブラック・キャット・モーン」「スイート・スイート・サレンダー」「ゴーイング・ダウン」の3曲の比較である。「ブラック・キャット・モーン」は作者の圧勝、「スイート・スイート・サレンダー」は引き分けかなどと言いつつ、「ゴーイング・ダウン」は作者がプロデュースしたモロクによる初出テイクも悪くないということに加え、その後はジェフ・ベック・グループのスタイルでばかりカヴァーされていることを紹介し、サンプル的にローリング・ストーンズ・フィーチャリング・ジェフ・ベックのライヴ・テイクも聴いてみたのである。面白い。

 

この後、さらに定番曲を3曲と考えていたが、全然時間が足りなくなってしまった。キャロル・キング作の2曲を諦め、1曲のみ、ロッド・スチュワートの拘りと絡め、若き日のロッドがフィーチャーされているパイソン・リー・ジャクソンの「イン・ア・ブロークン・ドリーム」と、1992年にデヴィッド・ギルモアとジョン・ポール・ジョーンズが演奏したがお蔵入りになってしまった再録ヴァージョンを聴き比べた。結果的にデヴィッド・ギルモアがツボを押さえているということで、再録ヴァージョン圧勝となったのである。何せ音がいいのである。

 

最後は、ジャズ・カヴァー代表として、ボブ・ディランの「マイ・バック・ペイジズ」を取り上げた。まずは30周年記念コンサートのオール・スター版を紹介しておいて、キース・ジャレット版とコジカナツル版を聴き比べたのである。30年以上もの時を経ていることもあり、コジカナツルの演奏は現代的で、ロックを通過したスタイルがアッパーで素晴らしい。「歌詞の内容からしても、コジカナツル版のほうが正しい理解なのではないか」という考えを述べて、終了となったのである。

 

これまでよりもトークの比重を大きくしたので、かけられる曲数が少なくなってしまったが、やはりこの程度にして、背景をしっかり語ったほうが充実した内容となるだろう。今回は、各曲の歌詞と、オススメしたいカヴァーが収録されたアルバムを掲載した資料をお配りしたが、果たしてご満足いただけただろうか。何はともあれ、語っているほうは非常に楽しかった。しばらくはこのスタイルで行くことにしようと考えているのである。

 


   

         
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