0097 君たち最高だよ(2017.02.04.

こんどはジョン・ウェットンが癌で亡くなった。聴き馴染んできたミュージシャンの訃報が続くなか、また一人、大好きなミュージシャンが鬼籍に入ることとなったわけで、寂しくていけない。昨年はデヴィッド・ボウイの訃報で明け、ジョージ・マイケルで終止符を打つような一年だったので、今年も多くの訃報に接することになるだろうという予測はできていた。それにしても、グレッグ・レイクに続いてジョン・ウェットンかと思うと、何だかやりきれない気分だ。プログレの耳朶が強制終了させられているような気がしてしまう。通常、ミュージシャンの訃報を知ったときには、SNSRIPと哀悼の意を表することにしているが、今回はあまりの驚きにそれすらできないでいた。ただ、店では、エイジアやキング・クリムゾンの音源を流してはいた。

 

メロディアスなプログレッシヴ・ロックとでも表するのか、彼の音楽を端的に表す言葉は見当たらない。一般的にプログレッシヴ・ロックというときに想起する難解さは、彼の音楽には無い。音の要素としてのプログレ感は多々あるが、あまりにポップすぎる嫌いがあって、ガチガチのプログレ・ファンには敬遠される存在だったのではなかろうか。少なくとも、自分の周辺ではそういう意見が多かった。しかし、自分はエイジアなどのポップ・ロックも好きだし、UK辺りまでは、可能な限り全音源を集め、聴いてきた。ソロ・アルバムにも好きなものは多い。フィル・マンザネラとのコラボはとりわけ好きな部類である。

 

さて、彼の参加音源は非常に多く、全体を把握することは難しい。知り得る限りは聴いているはずなのだが、どうも安請け合いの度が過ぎたような感もある。それでも、作品はいずれもクオリティが高く、好きなものが多かった。何がいちばん好きかと考えたとき、「ウェットン・マンザネラ」か、キング・クリムゾンの「レッド」か、UKか、といったところだ。UKは、ビル・ブルフォードがドラムスのファースト「UK 憂国の四士」も好きだし、テリー・ボジオが叩くセカンド「デンジャー・マネー」も大好きなので、趣きの異なる2枚の優劣がつけ難い。ジャズ・ロック的なファーストから、インプロヴィゼーション的な要素を減じたセカンドへの流れを延長したところにあるエイジアは、ジョン・ウェットン的ポップ・ロックの集大成ともいえる存在だが、全然プログレッシヴではないところが、今聴くと少々物足りない気もする。

 

結局のところ、ビル・ブルフォードとジョン・ウェットンのリズムが非常に好きである上に、ロバート・フリップの緊張を孕んだメロディが縦横無尽に駆け巡る、キング・クリムゾンの「レッド」あたりが最も好きな音ということになりそうだ。「レッド」のクレジットはこのスリー・ピースにゲストが加わった形になっている。その後の歴史も知った今となっては、よくぞこの3人が共同作業をアルバムというかたちに残せたものだと感心する。「太陽と戦慄」もあるが、緊張感の高さや曲のクオリティと言う意味では、「レッド」が最高傑作と呼ばれるべきだろう。

 

英国プログレッシヴ・ロックの歴史を振り返ると、「まあ、よくもここまで…」と呆れるほど集散離脱の繰り返しだが、結局のところ、テクニックのある連中がお互いをリスペクトしてはいるものの、音楽的な好みの微妙な違いが軋轢を生み…ということを繰り返してきたのだろう。一方にメロディアスな曲重視の一派がいて、他方インプロヴィゼーションを取り入れた、ジャズ・ロックやリアルなプログレッシヴ・ロックの、解体と再構築を楽しむ連中がいる。相容れない要素を持った連中が、化学反応を起こすように名盤を作り続けてきたのである。その一方の極に、メロディアスで商業性重視のジョン・ウェットンという存在があったのではなかろうか。

 

ギター・ロックが華々しくチャートを席巻する時代に、エイジアは見事なまでの同時代性を提示してみせた。一方でバグルスの「ラジオ・スターの悲劇」で歌われたようなヴィジュアルを求められる時代がやってきて、プログレッシヴ・ロックそのものが前近代的に扱われた。その中で、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」や、イエスの「ロンリー・ハート」など、商業的にも成功した例外を示しながら、ポップ化していくジェネシスのように、時代の流れに身を任せた連中もいたのだ。求道的にプログレッシヴ・ロックの道を突き進んだロバート・フリップや、インプロヴィゼーションの楽しさを見事に作品化していったビル・ブルフォードとは一線を画するかたちで、いかにもなポップ路線を走ったジョン・ウェットンの存在は、ロック・ミュージック全体でみたとき、やはり非常に大きなものだったと思う。

 

新宿の厚生年金会館大ホールのステージで、ハンド・マイク片手に「ラジオ・スターの悲劇」を歌っていたジョン・ウェットンは非常に楽しそうに見えた。「君たち最高だよ」というお得意のMCと共に、妙に忘れられない光景としてまぶたに焼き付いている。アメリカやイギリスの評価とは微妙に違い、日本では意外に人気のあったオッサンの艶のある歌声と、意外なほど堅実で上手いベース・プレイが忘れられない。RIP、ジョン・ウェットン。

 


   

         
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