0099 アナログ・ブーム(2017.02.19.

この期に及んでアナログ・ブームである。世の中全般的なことでもあるが、自分の周囲にいる人間もアナログ・ブームらしいのである。若い人にとっては、いろいろある音楽の聴き方の選択肢のひとつなのだろう。自分が音楽を聴き始めた頃には、他に選択肢がなかったので、必然的にアナログ・レコードで聴いたわけだが、他に選択肢があったらどうしただろうかという疑問が沸いてきた。デジタルの手軽さは圧倒的である上に、最近はハイレゾなどそれなりに高音質になってきた。ただし、ノイズがないことは有り難いが、それが絶対とは思わない。

 

昔は主な情報源がラジオや雑誌に限られていたが、最近はそれに加えてインターネットの情報があるので、自分が好きなタイプの音楽に辿り着きやすい。しかも、リンクを辿っていけば簡単に購入もできる環境があるわけで、わざわざ面倒なアナログ・レコードに行きつくのは、相当の好き者という気もする。オーディオ一式を揃えるだけでも、ある程度の金額になるので、若い人には敷居が高いようにも思う。もちろん若いアナログ好きが増えることは大歓迎だ。少しでも手軽にアナログ・レコードを聴けるようにメーカーも頑張って欲しいものだ。

 

アナログ・レコードの場合、ジャケットの魅力はやはり大きいと思う。音楽は聴覚だけで楽しむものではない。ジャケット・アートや内袋のデザインも含めて、アナログ・レコードのデザイン的な魅力は大きい。2000年代になって以降、一時期のレコードは内袋が白い紙のものが多かったが、最近は写真や歌詞やクレジットが掲載されたしっかりした内袋が増えてきたことが嬉しい。

 

古いレコードに関して言えば、当時の広告が印刷された内袋も魅力的な要素になり得る。7インチ盤の紙袋などは、ジャンルに関係なく、その当時人気があったミュージシャンが紹介されているものもあるので、時代感覚が色濃く反映されていて面白い。パンナムの広告が入った紙袋も懐かしい。リマスター盤などが出るヒットしたレコードは問題なかろうが、マイナーなものは経年劣化が避けられない。状態のよい昔のレコードの価値は増すばかりだ。だからといって、値段が上がることも避けたい。あまり値段が高くなると、定年退職後の金持ちオジサンたちの自慢話の道具になってしまう。

 

将来的な市場のことを考えても、価格の高騰は避けたいものだ。1961年(昭和36年)の時点で、LPレコードは2,000円から2,300円程度で売られていたが、如何せん大卒初任給が1970年(昭和45年)でも39,900円、1974年で78,700円だったことを考えると、やはり高価なものだった。自分の場合は、昼飯代を節約してでも欲しいレコードは買い続けた人間なので、あまり参考にはならないかもしれないが、若い人たちが少しでも多くのレコードを買えるような世の中であればと思う。

 

高校生のアルバイト君が、ターン・テーブルを購入したという。それでは試しに聞けるようにと、レコードを数枚プレゼントした。まずは、彼の好きなジャック・ジョンソンだ。初期のレコードは、お客様からのリクエストも多いし、いいお値段になっているので、さすがにあげられるものではない。その他は、ノラ・ジョーンズやスティーヴィー・ワンダーなど、予備を何枚か持っているようなレコードだ。本来なら、オーディオのレファレンスにも使えるような盤だが、あまりシステムを選ばないというか、どんな機器で鳴らしても、そこそこいい音で鳴ってくれそうな盤を中心に選んだ。そんなことは説明しても分からないだろうが、せっかく買ったターン・テーブルでレコードをかけて、あまりに鳴りがしょぼいと嫌になってしまってのではなかろうか。大事に扱わないとノイズが入ってしまうことなどは、実際に経験して学ぶことだろうし、好みの音で鳴らせるようになるまでの道のりは、遠く楽しいものである。あえて口出ししない方がいいだろう。

 

人間は年齢を重ねると、ついつい昔話をしてしまうものだ。それが説教じみてくるとさすがにいけない。若い人にとって、年寄りが語る説教や自慢話など、面白いわけがない。そうならずに、上手く楽しめるようなアドバイスがしてあげられるといいなと思う。そもそも、オーディオ雑誌など、高価な機器をもった年寄りの自慢ページが載っていたりするが、あれを読んで面白いと思う読者がいるのだろうか、甚だ疑問である。最初は所有枚数が少ないために、同じレコードを何度も何度も繰り返し聴くことになる。自分にとっては、T.REXの「ザ・スライダー」や、サイモン&ガーファンクルのベスト盤などがそれにあたる。2年ほどは、毎日数回ずつ再生し続けたものだ。そういったレコードが、どれだけ愛おしいものか、他人に説明しても分かってもらえるものでもないが、やはり掛けがえのない存在なのである。オーディオ機器のよしあしなど関係ない。せめて、ワン・クリックで買える流行りの曲とは違う何かを、それらのレコードに感じてもらえるといいのだが。

 

 


   

         
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