0103 やはり聴き比べは楽しい(2017.03.19.

昨夜は毎月恒例のトークイベントの開催日だった。今年の1月からは「The Comparison」と銘打って聴き比べ会をやっていたのだが、昨日で3回目となり、ここで一旦聴き比べを終了することにした。あと100曲ほどやってみたい曲はあったので、ネタが尽きたわけではない。参加される側にとっては、好きな曲ならまだしも、そうでもない曲を何度も聞かされるのは案外苦痛と感じるものである。曲の好みは人それぞれ、オーディオ趣味的な楽しさはあるが、最大公約数的な曲はそうそうあるものではない。有名ミュージシャン同士の聴き比べとなるよう心掛けたが、ジャンルをまたげば親しみのないものとなるのは必然、自ずと限界がある企画である。アナログ・レコードで聴くというシバリを外したとしても、ここらが潮時だろう。

 

さて、不思議なもので、イベントとなると機器の調子が悪くなる。昨夜も始まりはバタバタしてしまい、テストも兼ねて1曲目は資料にもない、ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」になってしまった。スティーヴィー・ワンダーのライヴ音源と本人のライヴを聴き比べる体裁にはしたが、障害で歌えなくなってしまった悲しい事情を紹介しつつ、ここらで何とか機器の危機を脱し、本番のスタートである。まずはチラシでも取り上げていたフリートウッド・マックの初期の名盤「英国の薔薇 English Rose」から「ブラック・マジック・ウーマン」である。比較対象はもちろんサンタナだ。「天の守護神 Abraxas」ではガボール・ザボの「ジプシー・クイーン」と合体させて演奏される名演である。ヴォーカルは後にジャーニーで活躍するグレッグ・ローリーだ。ジャーニー関連でいうと、ギタリストのニール・ショーンもサンタナがキャリアのスタートとなる。随分異なる印象を持ってしまうバンドだが、まさしく歴史の面白さである。

 

2曲目は、ザ・フーの再デビュー・シングル、「アイ・キャント・エクスプレイン」である。名カヴァーはスコーピオンズとデヴィッド・ボウイで、モッズ然とした元ネタをハードロック的なスタイルでストレートに演奏したスコーピオンズと、テンポを落として如何にもグラムロックというスタイルで歌ったデヴィッド・ボウイ、甲乙つけ難しといったところだ。デヴィッド・ボウイのカヴァー集「ピンナップス」は、意外に知られていない名盤である。

 

続けて3曲目は、スペンサー・デイヴィス・グループの「アイム・ア・マン」だ。ここでご紹介したのは、カヴァー曲の少ないシカゴのデビュー・アルバム「シカゴ・トランジット・オーソリティ」の音源と、当時のライヴ音源である。ブラスの3人がパーカッションでバックアップするかたちで、ドラムスのダニー・セラフィンを大フィーチャーしたハードロック・チューンである。彼は現在も自己のバンド、カリフォルニア・トランジット・オーソリティでこの曲を演奏している。テリー・キャスのフィードバック・ギターも結構な迫力で、「政治的なメッセージ色の濃いブラス・ロック」とばかり記憶されているシカゴの、意外な一面を垣間見せる曲である。ここでは、とてもキュートな、フォルクスワーゲン・ポロの、歌う犬のCMも披露した。これは大受けだった。

 

次に、大名曲「トレイン・ケプト・ア・ローリン」である。エアロスミスの途中で転調する素晴らしいカヴァーとともに、1980年のラスト・ツアーでのオープニング曲としてやっていたレッド・ツェッペリンのライヴ音源や、エアロスミスにジミー・ペイジが加わったライヴ映像、ガンズ・アンド・ローゼスとエアロスミスが合体したライヴ映像、そして映画「ツインズ」で使われたジェフ・ベックの非常にウルサいテイクなどをご紹介した。

 

ここからは一応特集ということで、今回はスティーヴィー・ワンダーをフィーチャーした。まずは「哀しみの恋人たち」で、「スティーヴィー・ワンダー・プレゼンツ・シリータ」に収録された、当時の奥方に歌わせたものと、大名盤「ブロウ・バイ・ブロウ」のジェフ・ベックを聴き比べた。もちろん、ジェフ・ベックの圧勝である。次にリリース当時の政治状況を顧みたくなる「ハイヤー・グラウンド」だ。名盤「インナー・ヴィジョンズ」に収録されたオリジナルも素晴らしいが、7インチ盤シングルのレッド・ホット・チリ・ペッパーズのカヴァー・シングルが、猛烈な音で鳴ることを披露した。

 

ここから再度定番曲に戻る。多くの名唱を生んだ「アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー」は、まずブルース・ホーンズビーをフィーチャーしたボニー・レイットのオリジナル・リリースを聴き、その後、ボーイズ・II・メン、キャンディ・ダルファー、ジョージ・マイケル、アデルなどのカヴァーを試聴した後、ソフィー・ミルマンの素晴らしいカヴァーをフルでご紹介した。多くのカヴァーが存在する曲だが、やはりソフィー・ミルマンのものがアタマ一つ抜き出ているように思う。

 

次は、映画「ハーダー・ゼイ・カム」のサントラから、ジミー・クリフの「メニー・リヴァーズ・トゥ・クロス」を取り上げた。元ネタは美声で歌われるが、比べる相手はハリー・ニルソンの「プッシー・キャッツ」のテイクである。ジョン・レノンがプロデュースしつつ全面参加している素晴らしいアルバムであり、この曲は実にレノン・スタイルのシャウトが格好いいのである。後のブルース・スプリングスティーンや、ジョー・コッカーらの熱い歌唱を試聴しつつ、その原因となったと思われるニルソンがやはりよいのである。

 

今回の録り直しは、エルトン・ジョンの「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」を選んだ。「グッバイ、ノーマ・ジーン」と始まる「黄昏のレンガ道」版と、「グッバイ、イングランズ・ローズ」と始まる1997年のダイアナ皇太子妃を追悼するヴァージョンである。こればかりは好き嫌いという気もしたが、歌詞の比較もしてみたかったので、選んでよかったと思う。また今回、この曲を選んだのにはもう一つ理由がある。エルトン・ジョンが「グッバイ、イングリッシュ・ローズ」とせず、「イングランズ・ローズ」という歌い難い言葉を選んだのは、フリートウッド・マックのアルバム・ジャケットを想起されることを回避したかったのではないか、という個人的な見解を披露したかったからである。まさかとは思うが、あらためて正解ではないかと思った次第である。

 

さて、今回は少々時間オーバーを事前に詫びて、ジャズ曲を2つ聴き比べた。まずはパット・メセニー・グループの「オフランプ」に収録された「ついておいで Are You Going With Me?」と比較したのは、アンナ・マリア・ヨペックのカヴァーである。こちらのヴァージョンにもパット・メセニーは参加しており、いずれも甲乙つけ難い名演を披露している。また、もう一曲、前回の積み残し、ジョージ・ケーブルズの「クワイエット・ファイヤー」である。作者をフィーチャーしたロイ・ヘインズ盤はしっかり10年分進化している。さらに、日本が誇るソイル&ピンプ・セッションズからスピンアウトしたJ.A.Mのテイクも、荒削りながら素晴らしい。今回ベースの音を比べるようになってしまったが、実にそれぞれのよさが感じられるのである。これは最高に面白い比較となった。おかげで、やはり聴き比べは楽しいという結論に至り、しばらく間を置いて再開したいと思った次第である。

 



   

         
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