0104 ピンク・フロイドを聴く2017 (2017.03.26.

ここにきてプログレッシヴ・ロックをやたらと聴いている。昨年はキース・エマーソンとグレッグ・レイクが亡くなったこともあり、ELPを聴く機会が多かったが、最近ピンク・フロイドを集中的に聴きかえしているのだ。イエスやジェネシス、そしてキング・クリムゾンはカフェで流しやすいこともあり、普段から結構聴いているが、ピンク・フロイドは音の振れ幅が大きすぎて、お客様が多いときにはかけ難いのである。「狂気 Dark Side Of The Moon」「原子心母 Atom Heart Mother」「ウマグマ Ummagumma」は時々リクエストもあるし、「おせっかい Meddle」も「吹けよ風、呼べよ嵐 One Of These Days」一曲のみはやたらと耳にする。「アニマルズ」や「ザ・ウォール」は今聴いてもポップで、ヘタなAORよりも親しみやすい気がしている。

 

「まったくこの店ときたら、昼日中からジミヘンやピンク・フロイドが流れているんだから」と、ニコニコしながら嬉しそうに入ってくる常連さんなどは気にしないで済むが、如何せん小さな子ども連れのお母さんたちも多いので、さすがに憚られることはある。お母さんたちが入ってきた瞬間に大音量で怪しい音楽が流れているときは、入っていいものかという顔をされることもあるので、もう少し慎重に行かなければいけないと思いつつ、平日の夕方頃にはよくプログレが流れている。最近は無難なジャック・ジョンソンやノラ・ジョーンズ、ジョン・メイヤーあたりが多くかかっているカフェではあるが、オーナーが在店する時間帯は、少し違っているということだ。

 

ピンク・フロイドに関しては、昨年から旧譜の重量盤アナログ・リリースが続いており、嬉しい状況にある。ジャケットや盤のクオリティも高く、一部の再発盤のように、手に取った瞬間に違和感を持つということはない。最近は輸入盤のクオリティも高く、嬉しい限りである。相変わらず欧州盤の方が、米国盤よりも良質に感じるが、欧州盤は真ん中にあいているスピンドル用の穴が小さくて、押し込むようにしないとターンテーブルにセットできないことに、時々イライラさせられる。カフェでは無音の状況を最短にとどめたいので、実は結構大きな問題なのである。昔は削ったりもしたのだが、何とかならないものか。

 

ピンク・プロイドの旧譜リリースの中で最も嬉しかったのは「鬱 A Momentary Lapse Of Reason」だ。浜辺に猛烈な数のベッドが並べられている、ストーム・ソーガソンによるデザインのジャケットは、是非ともLPサイズで見たいものだし、1987年にリリースされたこの盤は、リアルタイムではCDでしか入手していなかったのだ。大好きな盤だっただけに、ぜひともアナログ盤で聴きたいと長年思い続けていたものなのである。

 

ここからシングル・カットされた「幻の翼 Learning To Fly」に関しては、輸入物だが7インチ盤を持っていたので、アナログでの鳴りはある程度想像がついた。45回転の7インチ盤故に音圧が高く、いい感じで聴こえているのかという気もしていた。その一方で、通常7インチだからと考える音のよさとはまた違う、包み込まれるような鳴りの中低音が素晴らしく、アタマの部分で引き込まれてしまうのだ。これはぜひともアルバム全体を通して、アナログ盤で聴いてみたいと思わせるものだったのである。

 

ただ、この盤はデヴィッド・ギルモアのレコードだと言ってしまうピンク・フロイド・ファンが多いことも納得している。実際にトニー・レヴィン、ジム・ケルトナー、カーマイン・アピス、マイケル・ランドウといったあたりの豪華ゲスト陣がいい仕事をしているのは事実だし、過去のアルバムではロジャー・ウォーターズの個性が独特のプログレッシヴ感を生み出していたことも確かだろう。しかし、リリースされたのは1987年である。1970年代は遠い過去になっていた時期にリリースされたものだったのだ。前作「ファイナル・カット」がリリースされた1983年の段階では、CDは既に製品化されてはいたが、まだ主要メディアはアナログだった。この「鬱」が出た1987年は既にCDの時代だったし、何はともあれヴィデオ・クリップを求められた時代なのだ。いかにもヒプノシスなテイストを振りまいていた映像も、ピンク・フロイドらしいクオリティを持っていたし、強烈なインパクトを持ったジャケットも、十分ピンク・フロイドだったと言って問題ないレベルと感じたように記憶している。

 

唯一残念だったのはヴォーカルなのかもしれない。ピンク・フロイドの声といえば、初期はシド・バレット、そして多くの主要アルバムではロジャー・ウォーターズという気はしている。ライヴで観たときも、やはりこの人が70年代のピンク・フロイドの音を作っていたのは間違いないなと納得したものだ。しかし、それも「ファイナル・カット」までのはなしで、エキセントリックなシャウトは影をひそめたが、聴きやすくなったことは歓迎すべきことでもあった。何はともあれ、それを補って余りあるデヴィッド・ギルモアの艶やかなギターと、鬱々としたヴォーカルが、ピンク・フロイドらしい翳りを湛えているのである。アルバム全体としても、素晴らしい出来だと確信している。

 


   

         
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