0110 アイ・ミス・ウェス・モンゴメリー(2017.05.06.

普段は読書などに割く時間がなかなかとれないので、ゴールデン・ウィークにまとめて読もうとするため、とても「のんびり読書三昧のゴールデン・ウィーク」などといった優雅な様相ではない。積んである資料をひっくり返し、確認作業などをバタバタと深夜まで続けている有様だ。小説を中心とした数十冊の本と雑誌、整理して音楽夜話のネタに使いたいと思っている古い文献などが一山といったところで、実際には一月あっても処理しきれない作業量を抱え、お手上げ状態なのである。それでも、どうしてもこれだけはと思い、最優先で片づける準備をしてあるのが、ウェス・モンゴメリー関連の資料である。

 

オクターブ奏法で有名なジャズ・ギタリスト、ウェス・モンゴメリーが忘れられず、レコードを聴き返したりしながら、カフェでは業後の片付けのBGMとして時々聴いている。「インクレディブル・ジャズ・ギター・オブ~」と「ボス・ギター」の2枚が好きで、よく針を落とすが、もう一枚、ヴァーヴ時代の名ライヴ盤「スモーキン・アット・ザ・ハーフ・ノート」のアウトテイク集である「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」も手元にある。実に地味な内容ではあるが、まだ30歳頃に前職の先輩から譲り受けた一枚であり、妙に忘れられない滋味豊かな好盤である。

 

ウェスは、19233月、インディアナポリスに生まれ、家族と故郷を愛した男である。1968615日、45歳のときに心臓発作で亡くなっている。モンゴメリー・ブラザーズとしてのアルバム・デビューが1955年、ソロとしてリバーサイドの契約を取り付けたのが1958年、35歳のソロ・デビューだから遅咲きの部類である。1960年の「ジ・インクレディブル・ジャズギター~」で注目されたのちも、ツアーを嫌い、地元での活動を中心にしていた。1964年にヴァーヴに移籍し、19669月にクリード・テイラーのプロデュースのもと、ジャズ・チャートで1位も獲得した名盤「カリフォルニア・ドリーミング」を録音する。ドン・セベスキーの指揮とアレンジによるオーケストラがついたもので、若き日のハービー・ハンコックのピアノも聴けるが、あまり好みの音ではない。ジャズというよりは、イージー・リスニングに近い音で、フュージョンの先駆けともとれる一枚だが、ロックやフュージョンを通過した後に遡って聴いた自分のような人間にとっては、少々古臭く聞こえる。翌1967年にはA&Mに移籍し、「カリフォルニア・ドリーミング」と同様の布陣でこの路線を踏襲した「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」も大ヒットし、キャリア・ハイ、まさに絶頂期を迎えるが、前述のとおり686月には他界してしまう。家族思いの人格者が何故こうも早死にしなければいけなかったか、彼のキャリアを振り返るたびに人生とはなんと不公平なものかと思わされる。

 

メジャーでの活動期間が10年前後と短いため、他のジャズ・ミュージシャンにくらべ、彼の情報は少なく感じられる。雑誌の記事なども、親指で弾く独特の奏法やオクターブ奏法の解説など、演奏技術に関する話題で終始しており、人となりが感じられる情報はあまり得られない。そんな中、1冊50セントで売られていたジャズ専門誌「jazz」(発行はjazz press)の1966年の12冊をまとめて入手したのだが、この中にウェス・モンゴメリーのインタビュー記事が掲載されていたのである。19665月に収録されたもので、カリフォルニアのFM曲、KBIG-FMJim Gosaというパーソナリティによるものである。簡単な英語で書かれたこの記事をじっくり読みたくて、少し前から楽しみにしていたのである。何せ、「カリフォルニア・ドリーミング」の準備をしていたであろう時期に、カリフォルニアで語っているのである。

 

とにかく、非常に真面目な人物なのである。丁寧な受け答えの中に、真摯に音楽と向き合っている姿勢がにじみ出ている。ジャズ・ミュージシャンが皆ジャンキーだと誤解されることに対する懸念、公民権運動が盛んでブラック・パワーの台頭が叫ばれた時期、白人ジャズ・ミュージシャンの活躍を真面目に語るオープン・マインドが印象的だ。ビル・エヴァンスの存在から、ジャズの商業化、当時大人気だったチェット・ベイカーやハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスの捉え方など、実に興味深い会話が交わされる。このインタビューの翌年、ハーブ・アルパートが創業メンバーでもあるA&Mに移籍し、大成功を収める直前という時期である。真面目な彼なりの悩みが、言葉の端々に感じられ、実に興味深い内容となっている。

 

これまで、あまりキチンと聴いてこなかった「カリフォルニア・ドリーミング」や「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」をあらためて聴きたくなってしまった。生前最後のアルバムとなってしまった「ロード・ソング」も人気のある盤だ。いずれも手元にあるが、これまで「BGMとしては悪くないな」といったスタンスでしか接してこなかったことを反省している。ミュージシャンの人となりも知ったうえで、時代背景とともに聴く音楽は、格別の感慨をもたらすこととなるだろう。

 




   

         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.