0111 80s、映像の時代(2017.05.14.

音楽は記憶とリンクしているから蔑ろにできないと常日頃から申し上げている。自分が好きな音楽だけがいい音楽と考えるのはまずい。人にはそれぞれ楽しかった記憶があり、皆さん意外なほどそういった記憶を大事にしているように思う。とりわけ10代、学生時代の楽しかった思い出は一生ものなのだ。だからこそ、10代に聴き親しんだ音楽はいつまでも大切なのである。先般も貸切りパーティを開催していただいたお客様から、「BGMは80s縛り」というご要望をいただいた。参加されたお客様の半数以上は、1980年代に10代を過ごしたであろう年恰好の皆さんだ。娘息子世代が数人混じっていたが、やはり盛り上がり方というかノリが違う。とても楽しそうな表情は、見ていてこちらも楽しくなる。

 

自分の場合、10代は1970年代なので、80sは決して得意な時代ではない。それでもずっと音楽から遠ざかることはなく聴き続けているので、知らない曲はほとんどない。ベスト・ヒットUSAMTVは頑張って録画したクチだ。最初はベータマックスを買ってしまい、随分もったいないことになってしまったが、今でも自宅の押し入れにはVHSのテープが大量に箱詰めされた状態で眠っている。DVD-Rに焼き直そうかと思わなくもないが、もうその気力と時間が残されているとも思えない。お客様と音楽談義を交わしているなかで、昔の映像の話が出てきて、「VHSの中を探せばあるんだけどな」と歯痒い思いをすることもある。しかし、多くの映像はインターネット上で観ることもできるのが現状であり、結局YouTubeからダウンロードして少し整理したものが、映像メディアとしては使い勝手もよく、頻繁に活用するということになる。

 

先般のパーティや次回のトーク・イベントの準備にために、最近は80s関連ばかり耳にしているのだが、自分の中ではやはり80sといったらミュージック・クリップでしょうという印象が強く、結局80sの好きな曲を集めた120曲ほどのファイルが最近のヘヴィ・ローテーションとなっている。もちろん音質はまちまちで、劣悪な音質の曲は飛ばすことも多く、この辺を補って何時でも楽しめるかたちにしておきたいなと思わなくもない。大好きな70sやもっと古いものになると、やはり映像素材がぐっと減り、レコード・ジャケットを映した静止画像に音だけがつけてあるものも多く、ちょいと寂しい。せっかくなら同時代の資料映像でもいいから、時代感覚が蘇ってくるものにしておいて欲しいなあなどと贅沢なグチをこぼしている。

 

80sではやはりマイケル・ジャクソンのヴィデオ・クリップが圧巻のクオリティで、随分先を行っていたんだなとあらためて感心することになる。名作「スリラー」など13分を超える大作であり、何度観ても飽きない。飽きないどころか呆れてしまう。実によくできている。捻りのきいたストーリーもさすがだし、映像も美しい。「スリラー」はシングルとしてはアルバム「スリラー」からの第7弾のカットということになるようで、いまさらシングル・ヒットを狙ってリリースされたものではない。それでもヴィデオ・クリップに巨額の資本を投下しているあたり、別の狙いがあったのだろう。ミュージック・ビジネスの中において、ダンスというものが持つ意味が変わってきた時期でもある。もちろん「ビート・イット」などもっと先にリリースされたシングル曲のヴィデオでもさんざんにダンス・シーンが織り込まれているが、この曲におけるゾンビたちのダンスで、音楽の中におけるダンスの意味合いが変わったようにすら思える。それだけインパクトもあったし、そのインパクト故に、全体のストーリーや他の部分のクオリティの高さを忘れてしまいそうでいけない。実にバランスよく、ハイ・クオリティなクリップなのである。

 

結局のところ、産業ロックなどと揶揄されて70年代に全盛だったロックは一時期下火になるが、RUN-DMCがエアロスミスを復活させてしまったこともあり、80年代後半にはデフ・レパード、ボン・ジョヴィ、ホワイトスネイクなどといったロックがヒット・チャートの上位に何曲もいることになる。ニュー・ロマンティックやテクノ・ポップのブームもあったが、後のメタル・ブームに繋がる萌芽が多数見え隠れする80年代のヒット・チャートは、バラエティに富んだ非常に面白いものなのである。

 

こんどの週末に開催する自分のトーク・イベントは80s7インチ盤で聴くというものだが、これまでに何度も書いてきたように、少々企画倒れ的な空気が漂っている。結局ミュージック・クリップを観ることで蘇ってくるもののほうが、遙かに大きいだろうと思うわけだ。問題は音質で、YouTubeからダウンロードしたものなど、どうしても低音の締まりが悪くていけない。音だけレコードで鳴らすかなどと言って、シンクロさせることは難しいだろうから、それも好ましくない。さてどうしたものか。どれだけのお客様がアナログの音質を求めてこのイベントに参加されるかということを考えたとき、やはり映像を重視しないわけにはいかないかという諦めが頭をもたげてくるのである。

 


   

         
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