0121 天国への階段(2017.07.30.

先週、義母が突然亡くなり、思い切りバタバタしてしまった。15年間途切れることなく毎週アップロードし続けてきた下町音楽夜話も、意外な理由により途切れてしまった。何事も継続することの難しさは理解しているが、好き勝手に書いているだけの音楽エッセイも、続けることは意外に苦労する。一週遅れたことで大したことではないかもしれないが、個人的にはそれなりに残念に思っている。自分は三日坊主と正反対の性格で、いろいろなものを始めると、いつまでも続けようとしてしまう。むしろ何も考えずに同じことを繰り返していることの気楽さがよいのかもしれない。何かを止めるということが、なかなかできない性質なのだ。

 

たかが音楽というなかれ、自分は長年聴いてきた音楽や読んできた本などで、人格が形成されると思っているので、好きな音楽で人を判断する場面もたまにはある。「自分と音楽の好みが似た人はいい人だ」などというような短絡的なはなしではない。政治思想や宗教観といった、もっとその人間の特徴としてわかりやすいものもある。しかし、日常生活の中では、そういったものは表出しない。よくいうキャラクターとして当人を表してしまうものに、こういったサブ・カルチャーからの影響があると思うのだ。第一印象は見た目やしゃべり方、物腰などといった外見やそれに類する表層的なもので決まる。その次の段階、第二印象という言葉は聞かないが、そういうものがあるとしたら、自分の場合は「どういった音楽が好みですか?」などといった話題が会話の取っ掛かりなので、とりわけ重要と感じてしまうのかもしれない。

 

政治や宗教に至るまでの部分、ものの考え方の基本スタンスを決めるのも、実は普段の暮らしの中にある価値観だろうと思う。他人から押し付けられた宗教観など、何の意味もない。自分の中に存在する価値観や考え方がベースでなければおかしいではないか。では価値観などはどうやって作られるかというと、おそらく学校などで教わるものでもない。家庭などで親の背中を見ながら自分自身がかたち作っていくものだと思う。

 

教育などというものも影響力はあると思うが、それがすべてということはあり得ない。1960年(昭和35年)生まれの自分の場合、やはり戦後の高度経済成長期に多感な子ども時代を過ごしたことによって、大きくて強い欧米の暮らしぶりに憧れ、海外に目を向けて国際感覚を養うことがあるべき姿という、刷り込みに近い教育を受けたのだから、十分人格形成に影響があったとは思っている。直接は全く関わりのない、ヴェトナム戦争や学生運動などというものも、反面教師的に自分のものの考え方に多大な影響を与えているのではなかろうか。

 

音楽に関しては、歌詞を読み取って影響されたという記憶はほとんどない。それでも、好きな音楽で大まかにキャラクター分類する癖は抜けない。誤解を承知で言えば、英国好きはオシャレさんでサブカルに詳しく、ソウル・ディスコ好きは遊び好きか不良、南部音楽好きは学究的、などといった具合だ。自分の周辺に当てはまる人間は確かにいるし、概ねハズレてはいないと今でも思っているが、例外も多く知ってしまったので、固執する気はない。それでも、例外的な人の中に思った通りの性格を感じ取ることがあると嬉しくなってしまう。

 

実は義母の葬儀の日は、東海亮樹氏の葬儀の日でもあった。東海さんはマップも掲載されているローカル・メディア「深川福々」を発行し、映画「小名木川物語」を制作したりした、深川の有名人である。清澄白河で店をやることになったとき、下町探偵団の元さんに、真っ先に会っておくべき人として紹介されたご夫婦である。区役所勤めを終え、もう少し地元のために何かしたいという意識を持って店を作っていた頃、まさに目標とすべき人物と思っていた人だ。さすがに会葬できず残念でならなかった。その東海さんは「葬式ではレッド・ツェッペリンの「天国への階段」を流してほしい」とおっしゃっていたという。

 

先日亡くなった知人、深田荘のマルシェなどで知っている人も多かったであろう、やはり深川の有名人、原田ベンさんに関しては、最後に会ったジンジャーのクリスマス・パーティのときに、彼が聴かせてくれたのが、ハートがカヴァーした「天国への階段」だった。最後に「天国への階段」を一緒に聴いたら、本人が昇っていってしまったとパーティの参加者の皆さんと偲びながら話したものだ。奇しくも、二人とも大動脈解離で亡くなったが、自分はこの二人に関して、何とも似たような印象を持っていた。自分のやりたいことを着実にやっていることが羨ましくもあり、目標とすべき人物だったのである。今年は、何とも喪失感に塗れた夏となってしまった。しばらくは人格形成と音楽の因果関係など考えながら、故人を偲ぶこととしたい。

 


   

         
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