0128 ビッグ・サー(2017.09.17.

ジャック・ジョンソンの4年ぶりのニュー・アルバム「オール・ザ・ライト・アバブ・イット・トゥー」が届いた。相変わらず心地よいアコースティック・サウンドと柔らかなヴォーカルに癒される。いきなりスラック・キーのスライド・ギターの音が飛び出してきて、これまでと随分違うなと思わせるが、よくよく考えてみればハワイの人なのだから、スライドが出てこなかったことの方が不思議でもある。自己のアイデンティティに目覚めたか、それでも違和感なくジャック・ジョンソンのサウンドになっていることが面白い。

 

新盤は曲のクオリティが非常に高く、「イン・ビトゥイーン・ドリームス」に並ぶ名作ではないかと思っている。初期はスローな曲にいいものが多かったが、この盤ではアップ・テンポの曲にも聞きやすいものがあって、ここしばらくヘヴィー・ローテーションで聴いているが、飽きる気がしない。本音を申せば、夏の前にリリースして欲しかったが、まだまだ夏気分でいられることを考えれば、夏の終わりに発売されたことも悪くないと言っておこう。実際は真冬でも聴いているので、勝手な思い込みなのだが、やはり夏に聴きたい代表ではある。

 

このアルバムに「ビッグ・サー」という曲がある。アナログ・レコードではB面の1曲目だ。これまでにない曲調で少々意外でもあったが、聴き馴染んでくると、アルバムの中でも非常にすわりがよく、アルバムの個性を決める重要曲のように思えてきた。そもそも、自分の場合、ビッグ・サーという地名には反応してしまうのである。下町音楽夜話第509曲「ウディ・ガスリーの詩が持つ力」でも一度触れているが、サン・ヴォルトのジェイ・ファーラーとデス・キャブ・フォー・ザ・キューティのベンジャミン・ギバードのコラボで作られた2009年の「ワン・ファスト・ムーヴ・オア・アイム・ゴーン」が大好きなのだ。これは、ビート・ジェネレーションの代表的な作家、ジャック・ケルアックの「ビッグ・サー」を題材にしたフィルムのサントラなのである。

 

ビッグ・サーはカリフォルニアの中部海岸線あたりの地名である。ヘンリー・ミラーやジャック・ケルアックが居を構えた土地としても有名だが、芸術家から愛された土地として観光名所にもなっている場所である。荒々しい海岸線が続く景色がウェブでも見られるので、どんな場所かということはある程度想像がつく。サーファーでもあるジャック・・ジョンソンにとっても気になる土地であることは間違いなかろう。古くはビーチ・ボーイズも歌っているが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「ロード・トリッピン」の詞にも出てくるということで、すべては知り様もないが、他にも多くのミュージシャンが歌にしているのだろう。

 

2008年の山火事で多くの森林を焼失しているが、自然に恵まれた土地であることには変わりない。非常に広大なエリアを指しているが、人口は1000人程度となっている。つまりほとんど人が住むような土地ではないと言っているようなものだが、それでも一部の富裕層や芸術家から愛されている土地と言われることが面白い。さらには何度でも歌になる土地となると、やはり気になるではないか。時間と金に余裕があれば、一度は行ってみたいと思うが、まあ実現することはなかろう。それでも、ウェブのおかげで、どんな景色かある程度知れることが嬉しい。

 

音楽というものは面白いもので、視覚的な情報が全くなくても、音だけで見えてくる景色がある。もちろんそれは過去の経験や様々なメディアから得た視覚的な情報から再構築されたヴァーチャルなイメージなのだが、案外ハズレではいないように思う。むしろそのイメージを結ぶ補助的材料としての音は、最大公約数的な共通認識なのかもしれない。ジョン・ウィリアムスがイメージする宇宙が、実に広大で躍動感に満ちているものだとして、それを「スター・ウォーズ」のテーマとして作曲する技術は他人が真似できるものではないが、あの曲を聴いてイメージするものは、多くの人にとって同じ宇宙の景色なのではないか。さらに言えば、そのほとんどの人が、実際に宇宙空間に行ったことがないわけだから、音楽というものは面白いと思うのだ。

 

ジャック・ジョンソンが奏でる「ビッグ・サー」は、少々荒れた波が打ち寄せる岩場だろうか。自分にとっては、海岸線のワインディング・ロードを軽快に走るアメ車がイメージされる。オーバー・スピードでカーヴに入ったときのブレーキで揺れる車体までもがイメージされるのは何故だろうか。曲のテンポが意外に早いからだろうか。自分はもう少し北の海岸線しか知らないが、そういう経験を補正しながら結ばれるイメージなのだろうか。いずれにせよ、気持ちのよいドライヴではある。そういう意味では、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの「ロード・トリッピン」に引っ張られているイメージなのかもしれない。

 


   

         
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