0134 アナログで聴く新譜(2017.10.28.

2017年も終盤に差し掛かった現在、アナログ・レコードは相変わらずブームのような状態で、若い方からお問合せを頂くことも多くなっているし、メディアからの取材が入ったりもする。もちろんウチ以外にもっと保有枚数の多いアナログ盤取扱い店はあるのだろうが、個人経営でBGMにアナログ盤を鳴らすカフェをやりながら、ショップ・イン・ショップで7インチ盤を専門に扱っている店というのはまずないのだろう。LPも売らなくはないが、あくまでカフェのBGM用であり、どうしてもというお客様にのみお譲りしている。じっくり音楽と向きあいたい方には面白い店と映るのだろう。

 

カフェのBGMは、すべて自分が決めているわけではない。スタッフに任せている時間帯も多い。若い連中はマルーン5やエド・シーランあたりが中心だし、ジャズの棚を漁って順番に聴いている人間もいる。ランチ・タイムの忙しいときはHDDプレイヤーで流しっ放しにしていることもある。ああいったものの「おまかせ」機能は結構面白い。「朝」「昼」「夜」「アクティブ」「ムーディ」など様々なチャンネルがあり、ランダムに選び出して流してくれるのだが、「なんでこの曲?」というものも出てくるし、「お、いいねぇ」という並びでプレイしてくれることもある。「自分なら次にこの曲が聴きたいんだけどな」と思っているときにその曲が出てきたときには何だか嬉しくなる。しかし過去に数回しかない。「なんでこの曲?」の方が圧倒的に多い。

 

「夜」が特にいけない。ジャジーな曲が続いている中に、エルトン・ジョンの「土曜の夜は僕の生きがい」のようなハードな曲が混ざり込む。好きな曲だけに、「今じゃないだろ~」という気持ちが強くなる。実際夜に使うことはないから構わないのだが、将来はAIなどの学習機能が生かされる分野なのだろう。メーカーにとって費用対効果の薄い作業だろうが、ぜひとも頑張って欲しいものだ。また曲の音量レベルを調整する機能はあることにはあるが、明らかに限界があり、いきなり大音量が飛び出してくることもある。時々お客様をビックリさせてしまう。いたずらでもしているのかと思うほどに、大小大小を繰り返すときもある。なかなかおちゃめな奴である。

 

話がそれたが、2017年に至ってアナログで聴きたいものはどういったものなのか考えている。最近ではマイケル・マクドナルドの新譜「ワイド・オープン」が、まさにアナログで聴くべき一枚だった。彼のちょっとハスキーな渋いヴォーカルは、アナログでなければと思わせる何かがある。ノラ・ジョーンズも同じような理由で圧倒的にアナログ盤のほうが魅力的な鳴りと思われる。中低音の違いか。ホセ・ジェイムスの艶やかなヴォーカルはまた違った魅力だが、彼の場合はCDで聴いてもあまり印象が変わらないのは何故なのだろうか。オーディオ趣味人あたりに確認してみたいものだ。自分は一枚でも多くレコードが聴きたかったクチなので、オーディオには金をかけないし、詳しくない。それでも、この音は好き、この音はバランスが悪いなどという感覚はある。カフェのBGMなどの生活雑音の多い空間で聴く音として、現在のウチのスピーカーはマイケル・マクドナルドなどを実にいい音で鳴らしてくれる。

 

エド・シーランは相当アナログ音に拘りがあるようで、これまでに出ている7枚すべてをアナログでリリースしているし、大ヒットしてから最近の2枚は45回転2枚組という贅沢な仕様になっている。アナログ盤はマスタリングが違うのか、ラジオで流れる音とアナログ盤でスピーカーに正対して聴ける音がエラく違うことが面白い。「シェイプ・オブ・ユー」のイントロなど、突き刺さるように飛び出してくる。実にいい音で鳴っている。高校生のアルバイト君が、ジャスティン・ビーヴァーという若いミュージシャンのレコードを持ち込んで、ウチのシステムで鳴らしていることがあるのだが、これも意外なほどいい音で鳴っている。比較できるほど知っている音楽ではないが、アナログでリリースする意味はあるのだろう。エド・シーランと同様に、電子音が多用されているが、最近のポップ・ミュージックはこれでいいのだろう。アコースティックな楽器の響きがどうのという音楽ではないが、アナログ盤のエッジが丸い音を上手く使っている。

 

CD以前の古い音楽は、アナログで聴くことを前提に作られているので、当然アナログで聴くべきなのだろうが、最近の音楽でもアナログ盤で聴くべきものはあるのだろう。「ジャジーな声だからアナログで」といった短絡的な話ではなくて、作り手が聞き手の環境をどれだけ意識して作っているか、アナログで聴かせたいと思って作っているかで、随分違いが出るのではなかろうか?ロックでも、デジタルの引き締まった音が好ましいのか、それとも分離の悪い中音域がダンゴ状になった塊感のあるアナログ音が好ましいのかということを作り手が意識しているか否かで、同じ音源でも出来上がりが違うように思う。ジェフ・ベックの「ラウド・ヘイラー」は分離のいい音が格好良いからデジタルでも問題なかろうが、マイケル・マクドナルドの「ワイド・オープン」は、明らかにアナログで鳴らすことを前提に作られているように感じられて嬉しいのである。

 


   

         
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