0135 「ブレードランナー2049」のサントラに物申す(2017.11.05.

「ブレードランナー2049」を映画館で観てきた。事前情報で、低音が強すぎてiMax3Dだと気持ち悪くなるかもと言われていたので、あえて普通の2Dスクリーンで観ることにした。そもそもヴァーチャル・リアリティのようなものが苦手なつれあいが一緒なので、3Dなんぞとんでもないと最初から諦めていたから問題はない。「ブレードランナー」に関しては、最も好きな映画と言っても過言ではないので、「2049」は非常に楽しみにしていた。カフェで「ブレードランナー2049」のワークショップも開催されていたし、3本作られたショートフィルムもすべて繰り返し観ておいた。SF好きには堪らない映画であることは間違いないし、映画ファンではなくブレードランナー・ファンという人たちもいるほどだ。皆さんあのディテールの細かさに心動かされるクチなのだろう。

 

3週間ほど早く公開された北米では、さほど集客に結びついていないということだったので、1作目のような難解さを継承しているのだろうと予測はしていた。だからと言って期待しなかったわけではない。そういうリアクションだろうということも想定内である。そもそも一般的なSF映画とは違って、哲学的であったり、生命倫理に関して考えさせられたり、独特の世界観は楽しむというキーワードでは決して括れない重さがあるのだ。観て楽しむというものでもない。ネタバレになるといけないので細かくは書けないが、期待した通りの出来に大満足だった。ストーリーはさほど難解でもないが、ディテールの面白さに目を奪われて、ストーリーが疎かになりそうでいけなかった。3回は観たいと言っていた知人もいるが、なるほどという気もするし、映画館では1回観ておけば十分という気もした。

 

なにはともあれ、音の凄さが尋常ではない。自分が久々に映画館で映画を観たからそう感じるのかもと思わなくもないが、低音が強すぎて気持ち悪くなる人がいるという情報があるだけに、やはりといった印象は当然だろう。爆音などはリアリティを超えた領域で観る者を驚かせるに十分の響きである。低音成分が多い音はいかにも現代の音響だから、前作と並べて見比べたときに大きな違いと感じることだろう。監督が違うにもかかわらず、前作に対するリスペクトは相当のもので、ストーリーの背景とは関係ない部分での作り込みも相当のレベルだ。前作が公開されたのは1982年だから35年も前ということになる。当然ながらCGはまだない。それ故いかに前作のデザイン・チームの頑張りが凄かったかという点が自分は評価したくなる最大のポイントだが、現代のCG技術を駆使して作られた映像がいかに迫力あるものかは自分が語るまでもないだろう。

 

先月から自分のトーク・イベントが「Around1990」ということで、90年前後の曲をあれこれ聴く機会が多くなっている。この時代の邦楽の特徴は、玉石混交のバンドブームとダンサブルな音楽に尽きるが、バブル経済の崩壊という時代背景とともに、働く女性視点の元気な歌詞も多く、当時は共感できたものが、今となっては色濃く時代を反映しているせいか、懐かしさが何倍も大きい。洋楽はオルタナの純化とともに、自分の好みではない音楽が増えていたので、洋邦のバランスが大きく邦楽よりに傾いた時期でもある。一部の素人臭いバンドの演奏には全く興味がなかったが、邦楽全般で洋楽と比肩し得るほど演奏内容が向上してきたことも特徴的だ。

 

この時期面白いのが、古くからやっていたバンドの音はさほど変化が見られない一方で、新しいバンドの一部にドラムンベースの影響が見えることだ。ズバリ、ベース音が全く違うのである。少し後になるが、久松史奈の「天使の休息」という元気のよい曲など、そこまでやらなくともというほど低音が入っている。先日カフェのシステムで流してみて、パーソンズやユーミンなどとあまりに音が違うことに、居合わせたお客さんと「全然違うね」と笑ったものだ。ドラムンベースを通過した耳とそれ以前のものはやはり違う。レッド・ツェッペリンの一夜限りの再結成ライヴ「祭典の日」でも、ジョン・ポール・ジョーンズの音だけがアップデートされたようで、まるで別物になっていた。90年代以降の音楽を聴くときに、この視点は案外重要に思う。新規性がまるで違って感じられるからだ。

 

「ブレードランナー2049」を観るにあたり、音楽に関する興味がなかったといえば嘘になる。この映画の音楽を担当したのは、ハンス・ジマー、 ヴァンゲリス、 ベンジャミン・ウォルフィッシュということになっている。前作で印象的な曲を聴かせたヴァンゲリスの名前も掲げたからには、もう少し音楽らしきものがあって然るべきと思ったが、聴くべきものが無い。エンドロールなど、デジロック的な音が出てくるかと思いきや、殊の外静かに終わってしまう。前作の劇場公開時の失敗に学び、語り過ぎない作りになっているのは大歓迎だったが、サントラ盤があったとしても絶対買わないと思わせる終わり方には若干注文をつけたい。重低音満載のサントラでよかったのに…。

 


   

         
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