0136 レコードの価値(2017.11.12.

春風亭昇太さんとマキタスポーツさんがやってきた。一月半ほど前に、お会計をしているお客様から、いきなりテレビの収録をさせてもらえないかという申し出を受けた。どうせまた窓からお向かいの清澄長屋を撮影させて欲しいというヤツだろうと思い、安易に「どうぞ」と答えたところ、「古いものを探している」ということで店内を物色し始めた。レコードは売り物なのかということなど10分ほど会話を交わしていたら、唐突に帰って行ってしまった。そのときはBoowyなどに興味を示しており、この年代のものが他にもあるかという話の流れで、「1980年代後半はもうCDにとって代わられた後の時代で、7インチ盤はリリースされていても枚数が少ないため希少なのだ」と申し上げたので、番組構成上難しいと判断したかと思っていた。

 

ところが数日後、こんどは別のADさんが企画書を持ってきた。オート3輪に乗って、レトロなものを探すという企画だという。「おや、採用か」と思い、「協力はしますよ」ということで、諸々の調整が始まった。数日後には「昭和歌謡はあるか?」という問い合わせが入り、「いろいろあるぞ」ということでやりとりが進み、Boowyとは時代が違うけどなという疑問とともに、ありったけの昭和歌謡のストックを店頭に出すことになった。「当日まで出演するタレントは教えられない」という。結局店に入ってきたときのリアクションを撮りたいからということだったらしいが、自分のようにテレビを観る習慣がない人間には意味がない。むしろ知らないことで不快な思いをさせないかということの方が心配だった。

 

今年の10月は惨憺たる天候だった。収録当日も雨が降っており、旧車を運転するのは慣れてないと怖いだろうなということが気にかかった。予定より1時間遅れ、店にやってきたのは春風亭昇太さんとマキタスポーツさんのお二人だった。正直なところ、「見たことあるかな」が第一印象である。申し訳ないが、笑点の司会の人だとか売れっ子だとか言われたが、「はあ」としか言えない。笑点が記録的な長寿番組であることは知っているが、最後に観たのは何十年前だろうか、といった具合だ。それでも、好き者は会話が弾むもので、オートチェンジャーの動作や7インチ盤のショッピングを楽しんでいただけたようだ。お二人とも7インチ盤をごそっとお買い上げくださり非常に有り難かったが、そこはさすがにと言うべきなのだろう、例えば大瀧詠一のものなど貴重なものが結構な枚数旅立って行った。補充のきかないものも多かったように思う。沢田研二は娘さんへのお土産だという。それだけでも十分に面白い。

 

昨晩放映されたものを観たが、随分印象が異なる映像に仕上がるものだ。自分自身の姿を見るのは何ともこっぱずかしいが、少しは店の宣伝にもなるのだろう。取り上げていただけただけでも感謝すべきだろう。しかし気になるのは、随分時間をかけて撮影していた素材の多くが使われていないことだ。何度も追加で撮影にきていたが、そういった映像もほとんどない。非常に真摯な態度で番組作りに努めていたようだが、撮影スタッフはあれで満足しているのだろうか。まあ実際に放送される内容はプロデューサーだかディレクターだかが決めるのだろう。多くの人間がかかわる共同作業の結晶なのだろうが、どういう理由であれ頑張った素材がボツになるのはやりきれないだろう。自分には到底務まらない世界だなという印象が強く残った。

 

番組の中では、「最も貴重なレコードは何か?」ということで、分かりやすい例としてグレン・フライとJ.D.サウザーが組んでいたロング・ブランチ/ペニー・ホイッスルのオリジナル盤が取り上げられていた。単に売りたくないという意味で「100万円出されても売らない」と言ったつもりだったが、どうも誤解されそうな気もする。スタッフから、あまり貴重な盤は店に置かない方がよいと言われているので、今後何枚かは自宅に持って帰ることにしようと思う。元役人のあまり商売ッ気のない人間がやっているものだ、本当に欲しいということさえ知れれば差し上げてしまうこともある。大抵は一律の廉価でお譲りしている。実際は値札なんぞついていてもないも同然なのだ。

 

レコードの価値は実際に売買される値段で決まるものなのだろうか?生産枚数の少ない自費制作盤で言うと、マイナーなアーティストのものなど誰も欲しがらないが、有名アーティストのものなら話は別だ。有名アーティストの大ヒット盤は、掃いて捨てるほど出回っており、100円でも高いと思ってしまうが、マイナーなミュージシャンのヒット曲はレア度で大きく価格が異なってしまう。有名アーティストのヒットしなかった曲が最も価値ありということになるのかと思うと、やはり違和感がある。聴く側の思い入れの強さも価値につながるのだろうが、店の知ったことではない。レコードの価値については、好みの違う誰かと、ゆっくり語り合ってみたいものである。

 


   

         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.