0138 時代は変わる(2017.11.26.

おかしなところから、お客様とジャケット・アートの話題で盛り上がってしまった。本人には申し訳ないが、サム・スミスのニュー・アルバムのジャケットがあまりにも冴えないのである。本人の顔のドアップなのでもう少しまともな写真はなかったのかと思ってしまう。無精ひげも格好良いというにはほど遠い。大ヒットした前作のように小ぎれいな印象を与えそうな写真であればまだしも、どうもカフェの店内に飾っておく気にならない。内容は前作同様悪くないのだが困ったものだ。このアルバムについて、「アナログ盤のサイズを意識したデザインなのだろうか?」という疑問が沸いてしまい、常連のお客様とそうではないだろうという点で意見は一致した。せいぜいでCD、最悪ダウンロード画面の小さな画像を想定しているのではないかと思うのだ。要はインデックスだ。

 

さらにそのお客様と、最近はアルバムという概念が希薄になっているということでも盛り上がってしまった。一曲一曲購入できるダウンロード販売が前提であれば、そうなるのも仕方がない。これも時代の流れと考えるしかないのだろう。アナログ・レコードのあの大きさがあってこそ、ジャケット・アートも価値があったと思うべきなのだろうか?CDサイズのジャケットではやはりデザインするときに心がけることも違ってくるだろう。増してや、ネット上の画面で識別するだけのインデックス的なものであれば、間違えられない分かりやすさが最も重要な要素ということになるだろうし、細かなデザインが二の次扱いになっても仕方がないのだろうか。何とも寂しいはなしだ。

 

そこであわせて話題となったのが、アナログ・レコード全盛期のアルバムに散見された間奏曲的なものや、SE的な曲とは言えないものの存在価値だ。編集カセットテープを作るときに、あまった部分を埋めるものとして重宝したものだ。自分はそういうものが非常に好きで、アルバムを彩る重要な要素だったのではないかという考えである。コンセプト・アルバムというほどのものではないが、そういった小品がアルバム全体に与える印象というものはバカにできないと思っている。個々の曲が構成するアルバムというものの中に光る間奏曲があることで、アルバム全体の構成が意味を持ったり、曲が引き立てられたりすることは往々にしてあると思う。ニッティ・グリッティ・ダート・バンドの歌う犬は別格かもしれないが、トラフィックの「ミスター・ファンタジー」など、ダウンロード販売の際にどうなってしまうのだろうなどと要らぬ心配をしている。夏っぽいテイストのアルバムの定番、波の音は曲の一部として扱われるのだろうか?松岡直也の「九月の風」などもシンドイことになるではないか。

 

どうも愚痴っぽくなっていけないが、自分の場合、やはりアナログ・レコードをパッケージ・メディアとして捉えているのだ。オーディオ趣味的に中低音が豊かでまろやかなサウンドということも好きだし、如何せんアナログ・レコードが主流だった時代のものは、アナログ・レコードで聴かせることを前提に作られているわけで、オリジナル志向という意味でもアナログ盤で聴きたいわけである。ミュージシャンが意図したかたちで聴くのが最善であることは間違いない。サウンドに加え、ヴィジュアル的にジャケット・アートも構成要素の一つとして考え、パッケージ全体として提示されたアートだと考えたいのだ。やはりジャケット・アートを眺めたり、録音スタジオやエンジニアなどのクレジット情報から音の傾向を考えたりしながら聴きたいのである。

 

もちろんダウンロード販売でもそういった情報は得られるのだが、やはりジャケットを手に取りながら、ニヤニヤしながら聴くというスタイルが好きなのだ。ジャケット・アートのディテールをあれこれ吟味するもよし、「何故この曲だけベーシストが違うのだろうか」などといったことを考えたり、その音の違いを聴きわけたりしながら楽しみたいのである。畢竟イヤフォンやヘッドフォンで歩きながら聴くスタイルではなく、スピーカーから音を出して聴きたいというところに行きつくのである。ホーム・オーディオは今でこそ随分贅沢な趣味となってしまったが、昔はどこの家庭でも家具調のオーディオセットなどがあって、スピーカーから音を出して聴いていたのである。

 

ソニーがウォークマンを発売したことで、音楽がより身近なものになったことは確かなのだが、その一方で音楽をパーソナルな世界のものにしてしまい、他人と同じ音を聞きながら時間をシェアするような体験が少なくなってしまった。しかしインターネットの出現はその流れさえも変えてしまう。スマホなどで聴き放題のサービスを利用することで、音楽を所有するという概念はどんどん薄れてしまっている。ダウンロード販売の時代すら過去のものとなりつつあるのだ。ミュージシャンもやりづらい時代になってしまったということか。音楽では食っていけない時代というが、その一方で個人的に録音録画したものをYouTubeで配信することで、一夜にして世界的なヒットを誰でも手に入れるチャンスがあるということにもなっている。マッタクもって面白い時代になったものだ。頼むから、針をおろす瞬間のドキドキが好きという人種を排斥しないでおいて欲しい。

 

 


   

         
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