0142 ジェイコブズ・ラダー(2017.12.24.

ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの「シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド」という1988年のアルバムは、いつ買ったかも忘れてしまったが、おそらくここ数年で買ったものだろう。安く売られていたものを買っておいたのだろうが、封も切らずに放置されていた。多すぎるレコードの間に紛れ込むと取り返しがつかない典型で、関係ないミュージシャンのレコードに挟まれ、逆向きで立てられていたのだ。よくぞ見つかったと思うが、どうしてこういうことが起こるのやら、我ながら情けない。

 

ジャケットの下の方に、妙に気になる「analog」という当たり前のことが書かれたシールが貼られており、実に違和感があったのでシュリンクをそっと外して剥がしてみたら、なんとカットアウト盤のノコギリ痕が出てきた。新品だと思っていたら、いわゆるシールド盤というヤツだった。しかしカットアウトであることを隠してシュリンクをかけ直しているあたりがちょいと気に入らないが、見方を変えればオリジナル盤だということになる。よほど大ヒットした盤なら分からないが、それほど売れたとは思えない盤でカットアウトとなれば、ほぼ間違いない。マトリクス・ナンバーとともにDMMの文字が見える。自分はオーディオ的には素人なので、こういった録音情報の見方は詳しくないし興味もないが、DMMという文字は何だか懐かしい。

 

なにはともあれ、異様にいい音で鳴る。スタジオは何カ所かを使っているが、エンジニアは2人だけ、「Recorded by Neil Dorfsman and Eddie King」という文字が、演奏者よりも上に書かれている。Neil Dorfsmanはプロデューサーでもある。この書き方は、音のよさに自信があるのだろう。1988年にリリースされたアナログ盤ということを考えれば、熟成し切った技術の極みが味わえる時期だ。残念ながら重量盤とは程遠い薄っぺらな盤だが、反りや歪みはない。1986年の「ザ・ウェイ・イット・イズ」も大好きなアルバムだし、タイトル曲は文句なしの優秀録音で、レファレンス盤としてもたまに使うものである。彼らならいい音で鳴って当たり前という気がしてしまう。

 

メンバーが並んで立っているだけのシンプルなモノクロのジャケットは、カネがかかっていない典型ではあるが、妙に見入ってしまう写真である。その中に見たことがある顔の男がいた。「あれ、Joe Puertaじゃないの」と口をついて出てきたその名前は、アンブロージアのベーシストである。よくよく見れば、「ザ・ウェイ・イット・イズ」にもクレジットされている。類は友を呼ぶというやつか。実力のある人間のもとには、実力者が集まってくるのはよくあることだ。シンプルだがツボを押さえたいいベースを弾く男だ。アンブロージアの好きな曲は、皆いいベースが聴かれる。デビュー曲「ホールディン・オン・トゥ・イエスタデイ」も印象的なベースのイントロが忘れられない。40年以上経っても忘れられないというのは、やはり凄いことだと思う。

 

そしてこの盤、さらに嬉しいことがもう一つある。大好きな曲が入っているのだ。それはヒューイ・ルイス&ザ・ニューズがヒットさせた「ジェイコブズ・ラダー」の作者盤である。ヒューイ・ルイス&ザ・ニューズは1983年のアルバム「スポーツ」がロングラン・ヒットとなった上に、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で使われた「パワー・オブ・ラブ」も大ヒットとなった。アルバム「Fore!」は1986年、彼等の絶頂期にリリースされた。ここからもナンバー・ワン・ヒットが3曲も生まれている。前述の「パワー・オブ・ラブ」は英国盤や国内盤にしか収録されていないが、「スタック・ウィズ・ユー」や「ヒップ・トゥ・ビー・スクエア」という大ヒット曲も収録されている名盤中の名盤である。このアルバムの冒頭を飾るのが「ジェイコブズ・ラダー」である。やはり押しも押されぬナンバー・ワン・ヒットではある。しかし他のヒット曲と比べると印象は薄い。1987年になってリリースされた「Fore!」からのサード・シングルなので仕方ないが、聖書に出てくる物語をタイトルにしたこの地味目な曲のサビの歌詞「step by step one by one」が大好きなのである。

 

ヒューイ・ルイスたちは1984年の夏過ぎに「ウォーキング・オン・ザ・シン・ライン」という曲をシングル・カットする。「スポーツ」からの5曲目のシングル・カットで、やり過ぎという印象も拭えなかったが、如何せんこの曲の歌詞が驚きだった。ヴェトナム戦争の後遺症に悩む退役軍人等のことを歌ったもので、バンドの印象とは随分かけ離れたものだったからだ。この時期、そういう映画も多かったが、アメリカがまだまだヴェトナム戦争を引きずっていた。その曲以来、この連中は侮れない存在となり、ずっとフォローし続けているのである。1985年から1990年にかけての4回の来日公演はすべて観ているが、残念ながら最近のライヴには行けてない。しかし、現役でいてくれることが嬉しい連中である。年をとっても、落ち着いてああいった普通のロックンロールを楽しみたいものだ。

 


   

         
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