0143 古いものに強い町(2017.12.31.

2017年最後の週末は、毎年恒例の京都旅行である。よくも飽きずに毎年行くなと言われるが、まったく飽きることはない。歴史的な神社仏閣が多いことは説明するまでもないが、最近ではコーヒー店やカフェの名店も多く、町家カフェを巡る楽しみもある。以前にも書いたことだが、元は自分も京都で町家カフェがやりたいという考えがあって、カフェづくりを検討し始めたことがあるのだ。ただどれだけ京都が好きと言っても、東京人が行ってやるのでは、海外で多く見られる似非和食レストランのように思われるのも癪なので止めたのである。京都の歴史ある名店カフェやお洒落な有名カフェなどを巡る楽しみは、半分仕事モードではあるものの、やはり楽しい。

 

さらに、古いものに強い町という側面は少々説明が必要か。自分の好きなものがいっぱいある町だからと言ってご理解いただける方には説明無用だろうが、とにかくレコード店と書店が非常に充実しているのである。アナログ・レコードの相場が東京と大分違っていることが大きな要因であることは間違いないが、河原町三条の角に立って半径100m内に10件ほどあるレコード屋がいずれも個性的で面白いのだ。自分は100000tアローントコという市役所の隣りのビルにあるお店が好みで、毎回のように立ち寄っている。今回はレア盤を中心に10枚ほど購入した。7インチ盤が多いということ、価格が東京ではあり得ないほど安いこと、東京では見たこともないような盤が毎度結構な数あることなど、嬉しい状況だ。一方で、すぐ近くにある某ジャズ専門店は東京よりも高めであり、京都ではジャズの人気のほどが知れる。京都ではジャズは考えないことにしている。

 

本屋に関しては、京都でなければならない理由もある。お気に入りだった恵文社一乗寺店の店長だった堀部さんが独立してつくられた誠光社という河原町丸太町の交差点近くにある店が最近ではお気に入りだ。如何せん、素晴らしいセレクションだ。今回も3冊ほど買ってきた。昔から読みたかったポール・オリヴァー著「Conversation with the BLUES」の翻訳本が目につき、大著なので持ち帰ることを考えると少々躊躇ったが、結局買ってきてしまった。

 

他にはミシマ社の「コーヒーと一冊」のシリーズでまだ見たことがなかったものも入手したし、何と言っても「かもがわご近所マップ」がどうしても欲しかったのだ。これはミシマ社×誠光社×100000tアローントコのコラボという、俄かに信じられない自分の好みの三者がコラボしたものなので、買わないという選択肢はない。しかも、以前パン屋の進々堂が無料で配った小冊子で実に印象深い文章を書いておられたいしいしんじ氏が寄稿しているではないか。もう一人、クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘氏も書いている!もう呼ばれているといった感覚さえ持ってしまう。

 

実は今回東京に持ち帰っている本はこれだけではない。セレクションがいかにも京都といった風情の大垣書店や丸善でも少々買い込んでしまったのだ。丸善ではMARUZEN caféで供される「檸檬」というスイーツも食してきたし、同店内にはミシマ社のコーナーも作ってあれば、期間限定で「ホホホ座 京都BAL店」と称して、ホホホ座関連の本やグッズを扱うコーナーまであった。大手がこういった独立系と共存を図る姿勢が嬉しいし、京都ならではのコミュニティが息づいている様子が嬉しくなってしまう。

 

今回の旅行には、ローリング・ストーンズの「オン・エア」を特集していたので、月刊誌レコード・コレクターズ20181月号を持参していた。最近では滅多に読まない雑誌だが、まだコピー・バンド的要素が色濃い時期のストーンズがカヴァーした収録曲全曲を解説しているからだ。自分がリアルタイムで聴いてきた音楽に関する解説、特に若いライターが書いたものは、当時の空気感が伝わってこない文章が多く、違和感を覚えていけない。それでも、自分も遡って聴いている60年代のストーンズの音源に関しては、そういう問題はないし、定期的にトーク・イベントをやっている身としては、やはりデータ収集は必要なのである。

 

自分の場合、1970年頃からリアルタイムで洋楽を聴き続けてきた人間なので、1960年代の音源に関しては、さほどの思い入れはない。しかし21世紀になって、避けてきたビートルズも聴き始め、ローリング・ストーンズの古い音源も半分研究的なスタンスで掘り下げている。ストーンズは比較的好きだったこともあり、これまでも随分聴いてきてはいるのだが、やはり70年代以降が中心だ。どうしても古い音源を聴くときは当時の時代背景やメディアでの取り扱われ方、ヒットした時の様子などが気になる性質なので、必然的に7インチ盤のスリーヴなどが面白くていけない。京都まで行ってやはり7インチかと言われ兼ねないが、古いものに強い町の中古レコード店には、当時の空気感を伝えるものが想像を絶するレベルで詰まっているのである。その一部を東京に持ち帰らせていただき、有り難く味わい尽くしている次第なのである。

 

では来年もいっぱいいい音楽を聴きましょう。よいお年をお迎えください。

 


   

         
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