0145 ローリング・ストーンズ温故知新(2018.01.13.

ローリング・ストーンズの初期音源のリリースが続いている。BBCで流された音源がまとまったかたちでリリースされた「オン・エアー」は、やっと出たかといった印象だが、32曲というボリュームは予想を上回るものだった。どうせデラックス仕様などといって高価なボックスセットで出るのだろうということは想像していたが、あまりに思ったままなので笑ってしまった。それでも、アナログ盤も2枚組でしっかりした装丁のものを、しかもデラックス盤と同様の32曲入りでリリースしてくれたことは嬉しかった。ストーンズ・ファンで、18曲入りの通常盤を買う人間がどれだけいるのだろうか。通常盤の方が、将来的にレア盤になってしまいそうな売り方に、「何やってんの?」と失笑している方は多いだろう。

 

一昨年の「ブルー・アンド・ロンサム」で現時点のストーンズが原点回帰をしてみせたことも、BBC音源のリリースに期待を持たせる意味で、一つの布石だったのだろうか。出る、出ると言われてはいたものの、本当に状態のいいテープが残っているのかという疑問もあったし、今更公式盤として出す価値があるとミュージシャン・サイドが考えるかも疑わしかった。ビートルズほどパワフルでもなく、個性もまだ確立していない時期の音源である。初期のロックン・ロールやブルース曲のカヴァーを、あらためて聴きたいと思うファンがどれだけいるのかということも疑問ではあった。無事にリリースされたので、こういったことも書く気になるが、50年以上も前の録音がどんな鳴りかということも不安材料ではある。しかし、そういった疑問や不安はすべて払拭された。これなら公式リリースする価値はあるだろうと思える素晴らしい出来である。

 

自分の場合は、リアルタイムで聴いてきたものが70年代以降なので、60年代のものに対する思い入れは薄い。圧倒的に70年代の方が好きな人間である。ビートルズは21世紀になってから聴き始めたし、インターネット、特にYouTubeのおかげで、さほど資金力がなくても旧音源を掘り下げて勉強することが可能になったことで、古いものに目が向く環境が整ってきたという印象はある。本人たちの意向ではないかもしれないが、ローリング・ストーンズはそれでもコンスタンスに旧音源がリリースされた方で、80年代90年代もファンにとって有り難い状況が続いていた。自分も随分聴いてきた。最も好きなのはミック・テイラーが在籍した時期だが、その後の音源よりはそれ以前の方が好きということもあって、古いライヴ音源などは随分買い集めたものである。しかもこの連中、音源管理が悪いのか、別テイクなどのレア音源がやたらと存在するので、探す楽しみ、聴き比べる楽しみもある。

 

今回の「オン・エアー」と同時期に、「Unreleased Chess Sessions 1964」という盤もリリースされた。2016年の夏ごろCDがリリースされ、同時期のアナログ盤は1000枚限定のピクチャー・ディスクだった。当然ながら、とても入手できる代物ではなかった。今回はレッド・ビニールで500枚限定ということだったが、何とか入手できた。届いてみると、確かに赤盤だったが10インチ盤だったので驚いた。8曲入りの未発表音源集ということであれば、適当なサイズだろう。しかし、いい加減な告知である。通し番号などが入っているような売り方はたまにあるが、さほど興味が持てるものではない。うまいなという程度だ。

 

ともあれ、「オン・エアー」と「チェス・セッションズ」、重複している曲は2曲のみであることも嬉しい。そしてどちらも予想外にいい音で鳴る。「オン・エアー」のほうは、海賊盤によくあるようなブロードキャストもののチープな音質とは別世界の鳴りである。アビーロード・スタジオで随分時間をかけてマスタリングし直したようで、そこはさすがに大手がリリースしてくる公式音源である。一方の「チェス・セッションズ」はReel To Reelというところから出ており、公式リリースなのかどうかは知れないが、さすがにスタジオ録音ものだけに驚くほどのいい鳴りだ。これが、ローリング・ストーンズにとって初のNo.1になった「Five By Five」のアウトテイクであろうことは容易に想像できる。これだけの音源の中から5曲をピックアップしてリリースしていたのであれば、それなりのクオリティであったことも窺い知れる。実際に自分も大好きな盤である。

 

そもそもブルースの名門レーベルであるチェスで録音するという、本人たちにとってはこの上なく嬉しい企画だっただろう。スタジオの住所である「2120 South Michigan Avenue」をタイトルにしたオリジナル曲まで作っているのだから、嬉しさの程が知れる。レコードの音源を流せないという当時の法律のおかげで、多くの名演が残されたBBCもさることながら、やはりチェス・スタジオでのセッションはその後のストーンズの個性が確立される礎になったものでもある。本人たちの思い入れの深さからしても、またイアン・スチュワートのオルガンの巧さもあり、今回の2タイトル、チェス盤に軍配を上げる。

 


   

         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.