0152 脳内ループ(2018.03.04.

いくら音楽が好きだといっても、四六時中聴いているわけではない。以前は自宅では必ずBGM的に音楽を流していたが、最近は全く聴かない。店でタップリ聴けるからという環境の変化が大きいことは理解しているが、いつでも聴ける状況だとかえって聴かない時間も欲しいと思うようになる。店ではあまりエキセントリックなものやハードロック、フリージャズなどはかけないので、どうしても限られたものばかり聴くことになる。特にビリー・ジョエルやビートルズ、ノラ・ジョーンズやパット・メセニーなどは、安定の人気といったところで、ターンテーブルの上に乗る回数が多くなる。店の限られたスペースに置いておける盤の数は限られているので、案外同じものを聴くことになる。

 

その一方で、毎月恒例のトークイベントを開催しているので、特定の年代のものを集中して聴くことになる。ここでは無難な選択という考え方は一切排除し、徹底してかけたい曲を選びだす。結果的に、毎月約100曲を聴いて、30曲程度を選び出すことを繰り返している。おかげで普段は聴かないミュージシャンのものも聴くことになるし、サントラ曲はトレーラーにあたったりもするので、洋邦問わずいろいろ聴くことになる。その年にヒットした曲を全部かけることは不可能なので、多くは落選となるわけだが、大ヒットした曲ばかりかけるような手抜きはしていない。そこは自分の記憶を頼りに、いろいろ記憶が蘇り易い曲を選んだりもする。如何せん角川映画の曲などは、テレビで猛烈な回数のCMが流れていたので、その映画を観ていなくても、一定の年齢以上の方は誰もが懐かしいと思えるものだったりする。結果的に大ヒット曲と同じ効能があることになる。

 

結局のところ、好きな曲ばかりを聴いているわけではない昨今、こと音楽に関してはそうとう記憶がしっかりしてきた。2011年から2015年頃は循環器系の不調で倒れたりもしているので、記憶がまだらになっているような状況で、思い出せないことも多いのだ。申し訳ないが、前職の最後の方の時期に机を並べて仕事をした人間は、顔も名前もロクに思い出せなかったりするのである。またそんな時期の音楽は、ほとんど記憶にない。昔ほど聴いていないとも思うが、記憶の空白期間みたいなものがあるのである。その一方で、昔の曲は驚くほどしっかり憶えている。我ながら驚くことにもなる。

 

自分では脳内ループなどと呼んで楽しんでいるのだが、何の前触れもなく、特にキッカケもなく、ある曲を思い出してしまい、レコードなどを引っ張り出してきて聴かない限り鳴り止まないこともある。ものによっては本当に40年ぶりに聴くようなものも含まれているので、面白いことは面白い。脳は実に不思議なものだとも思う。懐かしい曲を聴いてある事象の記憶が蘇ってくることはよくあるし、トークイベントでもお客様が大騒ぎしていることもあるので、自分がそういう場を提供しているということなのだろう。しかし、自分の場合、店で調理などをしていて、突然ある曲が沸き上がってきてしまうことがあるのだ。何かしら関連することを思い出して曲が蘇ってくるのならわかるが、どうにも関連するものがなにもない。あまりに突然のことに、夜遅く一人で悶絶することになる。何かしら記憶を呼び覚ますトリガーがありそうなのだが、一向に思いつかい。

 

例えば、シン・リジーだったり、デイヴ・メイスンだったり、レス・デューデックだったり、ニルソンだったり、ドッケンだったり、マッドだったり、パートリッジ・ファミリーだったり、モンキーズだったり、マリア・マルダーだったり、スティーヴン・スティルスだったり、…支離滅裂である。昔よく聴いたというほどでもないのに、そして曲名すら思い出せないこともあるのだが、明らかにある特定の曲を思い出しているのである。シングル曲でヒットでもしていてくれればまだ救いはあるが、アルバム中の曲だったりすると、特定するのに時間がかかることもある。その間、結構な頻度でそのフレーズが繰り返し脳内で再生されてしまうので、実に困りものなのである。

 

その関係で、先日面白いこともあった。脳内ループというフレーズが脳内でループしてしまい、「いったい何なんだこれは」と頭を抱えた瞬間にある曲が浮かんできて、なるほどと妙に納得してしまったのだ。その曲とは、「エドモンド・フィッツジェラルド号の難破 The Wreck Of The Edmund Fitzgerald」である。ボブ・ディランからも敬愛された、カナダの吟遊詩人的フォーク・ロック・シンガー、ゴードン・ライトフットのヒット曲だ。1976年のアルバム「サマータイム・ドリーム」に収録されている曲だが、そのアルバムは2013年に入手したもので、それまで完全に忘れていた曲だった。ただこの曲は極めつきの特色があって、実にウルトラ・ワンパターンなのである。サビのフレーズもない、同じフレーズを延々繰り返すだけの曲構成なのだ。Aメロしかないと言った方が分かり易いか。とにかくこのフレーズが脳内ループしてしまったらもう最後、しばらくは頭から離れない。親しみやすいメロディとともに、ついつい口ずさんでいる自分に驚くことを繰り返してしまうのである。ひょっとしたら、ただの老化現象かも知れないが、実に気持ち悪くもあり、楽しくもあるのである。

 


   

         
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